本年度では、まず実験に用いるオオシロアリを採集し、働きアリ(Pseudergate)、兵隊アリ(soldier)、王・女王アリ(primary reproductives)の消化管を除く全身からRNAを抽出した。次に、抽出したRNAから次世代DNAシークエンサーで塩基配列決定を行うためのサンプル作成をし、次世代DNAシークエンサーHiseq2000を用いて各カーストのトランスクリプトームデータを得ることができた。働きアリ、兵隊アリ、王・女王アリの間で発現量に差のある遺伝子(カースト特異的遺伝子)を特定するため、大型計算機をもちいてde novoトランスクリプトームアセンブリング、発現量解析をおこなった。その結果、2705個のカースト特異的遺伝子を特定することができた。また、オオシロアリのトランスクリプトームデータに加えて、ワモンゴキブリ、キゴキブリ、ヤマトシロアリ、ネバダオオシロアリ、ナタールオオキノコシロアリのデータを加えて、シロアリ類がキゴキブリとの共通祖先から進化する過程で、正の自然選択、あるいは純化選択圧の緩和が生じた遺伝子の特定を行った。その結果、4遺伝子で正の自然選択圧が検出され、11遺伝子で純化選択圧の緩和が検出された。正の自然選択圧が検出された遺伝子のうち2つは、カースト特異的遺伝子であった。アミノ酸配列の相同性検索の結果はこれらの2つの遺伝子は細胞分裂に関わる遺伝子であった。今後、この2つの遺伝子やそのほかのカースト特異的遺伝子、自然選択圧の変化があった遺伝子の機能をより詳細に解析する。
|