前年度に得られた水生カメムシ類における日本列島からユーラシア大陸への移動分散 (back dispersal) についてより深く議論するため、重要地域である朝鮮半島、対馬および西日本地域のサンプルを中心にタイコウチ科昆虫類を中心としたサンプリングを行い、採集されたサンプルの分子系統解析を実施して解析データを追加した。前年度に得られた結果を考慮し、特にback dispersalの傾向が強く支持されたタイコウチに関しては、重点的に解析数を増やすことで議論を深めることが可能になった。 また、コオイムシ類に関しては姉妹種であるコオイムシおよびオオコオイムシの2種で使用が可能なマイクロサテライト・マーカーを14座作成することに成功した。このことにより、これまで展開してきた山岳域や海峡形成による遺伝的交流の分断といった比較的大きなスケールの遺伝的構造に関する議論のみではなく、隣接する生息地間や水系間など、さらなる詳細なファイン・スケールでの分布域拡大プロセスの追究が可能となった。 さらに、コオイムシに関して、これまでの研究結果で得られているデータをもとに遺伝的に大きく異なる2系統が混在する中国地方 (山口県および広島県周辺地域) のサンプルを重点的に解析し、GISを用いて過去の分布域の変化を推定した。この地域のサンプルについてはすでに相当数のトータルDNAの抽出を済ませており、今後、マイクロサテライト・マーカーを用いた分子系統解析を実施していく予定である。
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