本研究では,様々な形質変異を持ったクサギの花を3Dプリンターで多量に作製し,訪花行動を解析することにより,訪花行動をコントロールする形質進化の歴史復元と生じ得る未来予測を試みる。とりわけ立体構造をもつ花形質のうち,「花筒の幅と長さ」「雄しべ雌しべの空間配置」に注目する。立体模型ごとの適応度を,これまでに野生のクサギを用いて観察された,接触あたりの花粉運搬量,接触部位で異なる花粉の保持率,接触回数あたりの種子生産量と照らし合わせて評価する。そのためにまずはじめに,自生する10株100個のクサギの花を3Dスキャナーで計測,3D設計支援ソフトを用いて立体構造を平均化し,3次元データを作製する。得られた3次元データから,クサギ属内の形質変異を考慮し,任意に設定する最小値から最大値の間を20段階に分けた,4形質合計80個の模型データを作製することを目的とした。
本年度では,3Dスキャナを用いて「花」という生物体の一部をスキャニングする際の条件設定に多くの時間を割いた。その結果,4科8種91花のスキャニングを行うことができた。具体的には,シソ科,ツツジ科,マメ科,キク科を扱い,それぞれで異なるスキャニングに適した条件を設定できつつある。スキャニングされたデータを印刷するための調整に時間と技術が必要であることが明らかにでき,実際に自由に形が変えられる花の模型を作製できる一歩手前までくることができた。
|