研究課題
RNAi現象が最初に見出されたC. elegansや一部の植物においては、dsRNAが細胞間を伝播し、細胞非自律的に遺伝子の発現を抑制する全身性RNAi(systemic RNAi)という現象がRNAiの発見当初から知られていた。この現象は、一部の哺乳動物の培養細胞においても観察されることから、進化的に保存された機構であると考えられる。本研究では、C.elegans遺伝学を駆使して、細胞外RNAが細胞内へ取り込まれる分子メカニズムを解明することを目指す。我一連の予備データや先行研究からホスホイノシタイド(PI)が全身性RNAiに関与している可能性が考えられた。そこでPIの修飾に関わる酵素遺伝子の遺伝子欠失変異体や過剰発現株を用いて、どういったタイプのホスホイノシタイドがsystemic RNAiに関与するのか、更には、細胞外RNAの分泌と取り込みのどちらの過程に関わるかという点を検討した。そこで、PI(3,5)Pの合成に関わる遺伝子の野生型タンパク質と触媒部位に変異を導入したドミナントネガティブタンパク質の過剰発現株を作成した。野生型タンパク質の過剰発現株は正常に発生し、生殖可能であったが、ドミナントネガティブタンパク質の過剰発現株はタンパク質を誘導する前の状態においても大多数が不稔となった。野生型タンパク質の過剰発現株では全身性RNAiが正常に作用したため、本分子によるPI(3,5)Pの余剰な合成はdsRNAの伝搬に影響しない、或は、別の酵素による補償作用が働いた可能性が考えられた。加えて、順遺伝学的スクリーニングで全身性RNAiに関わる可能性のある遺伝子をいくつか見出すことに成功した。
2: おおむね順調に進展している
ホスホイノシタイドの関与を検証する実験については計画通りに進める事ができた。遺伝学的スクリーニングの方は、全ゲノム配列解析にいたるまでの過程が想定していたよりも時間を要した。全ゲノム配列解析を行う為に、戻し交配を複数回行ったが、不稔になったり、バッククロス後にRNAiの効きを検証する必要があったため、これも思いのほか時間を要した。しかし、年度内に解析可能なすべての系統の候補遺伝子を抽出することができたので達成度を(2)おおむね順調に進展しているとした。
サプレッサーの候補遺伝子のなかでも、神経細胞でのGolgiからの選別輸送に関わる可能性が言及されている分子に重点をおいて研究を進める。本分子に関して、神経細胞以外での機能についてはよくわかっておらず、神経細胞以外で小胞輸送過程に関与しているか否かは不明である。2015年度の最初はこの分子の全身性RNAiへの関与を検討する。仮に、全身性RNAiに関わることが明らかになった場合、組織特異的レスキュー実験や生殖巣と擬体腔にdsRNAをインジェクションする実験を行うなどして、dsRNAの取り込みに必要なのか分泌に必要なのかという点を明らかにする。加えて、イメージングによってdsRNAの細胞内局在や挙動を追跡し、細胞のどこでどういういふうに働くのかという点も明らかにしたい。また、潜在的に上流で働く可能性のあるチロシンキナーゼ受容体をコードする遺伝子の変異も別の抑圧変異体の候補遺伝子としてとれてきているので、関連しそうな一連の分子の全身性RNAiへの寄与を検証する。
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