細菌は注射器型のⅢ型分泌装置(T3SA)を用いて宿主細胞内にエフェクタータンパク質を注入して感染するが、T3SA内をエフェクターが輸送される機構は解明されていない。本研究では「Ⅲ型分泌装置がニードル内壁にある疎水性アミノ酸螺旋と逆方向に回転することでエフェクタータンパク質を輸送する」という仮説の検証を目的とする。本年度はT3SAニードル内でのエフェクター輸送速度を定量評価し、T3SA回転速度との相関を調べた。 T3SA内でのエフェクター輸送速度を測定したという報告はこれまでに無く、上清中エフェクター濃度は非常に低いためにこれを達成するのは困難であった。しかし、本研究ではELISA法に基づく上清中エフェクター量を高感度定量するための実験系を新規に構築し、T3SA内でのエフェクター輸送速度を測定することに成功した。この結果、エフェクターはその種類によらず、T3SA1装置当たり約6分子/minの速度で輸送されることが示唆された。この輸送速度と疎水性アミノ酸螺旋の長さに関する過去の報告からT3SA回転速度を見積もると約1000回転/minとなり、回転観察の条件である1µm径のマイクロビーズをT3SA先端部に付加した際の回転速度は約10秒/回転と計算できた。この計算結果は実際に観察した回転速度(約20秒/回転)に近い値であることから、本研究で提唱したエフェクター輸送に関する仮説が十分妥当なものであることが示唆された。 本研究にて「T3SAの回転速度とエフェクター輸送速度が相関する」というT3SAのエフェクター輸送機構に関する重要な知見が得られた。この知見に基づき、エフェクター輸送機構が解明できれば、Ⅲ型分泌の阻害により細菌感染を抑制できる新規抗菌薬の開発に繋がることが期待される。
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