ゴルジ体は、真核生物の細胞内小器官の中でも非常に特徴的な層板構造をとることで知られているが、この構造がどのようにして形成・維持されているのかは、ほとんど明らかになっていない。研究代表者は、これまでの研究から、タバコ培養細胞でゴルジ体-小胞体間の輸送を阻害する薬剤であるBFAで処理を行った際、層板構造の中でも最もシス側の槽に局在するタンパク質が未知のドット状の構造体に局在し、この構造がゴルジ体の形成に重要であることを示唆する結果を得てきた。当該年度には、シロイヌナズナ個体の根の細胞においても同様のゴルジ体マーカーの挙動が見られることを、タイムラプス観察によって明らかにした。また、このシス槽マーカーは、BFAによって阻害されない経路によって小胞体からドット状の構造へ運ばれることがわかった。BFAを除いたときのゴルジ体再形成については、当研究室で開発された超解像ライブイメージング顕微鏡SCLIMを用いて多色で詳細な解析を行うため、これまで植物細胞では使用例の報告されていないiRFPを導入し、観察に成功した。GFP、RFPと共に3色同時の3Dタイムラプス観察を行った結果、シス槽マーカーのドット状構造が、BFA除去後のゴルジ体再形成の際に、ゴルジ体構成因子を受け取る場として機能していることが確かめられた。さらに、薬剤処理を介さないゴルジ体新規形成メカニズムの解明のため、ゴルジ体層板構造の数がいつ増加するのかを調べる解析にも取り組んだ。生きた細胞で長時間の4D観察を行い、3D画像中のドット状シグナルをカウントするImageJプラグインを開発して、一つの細胞の中のゴルジ体数の変化を解析したところ、これまで細胞周期の進行に沿って増加すると考えられてきた植物細胞のゴルジ体の数が、細胞周期そのものではなく、細胞の成長に伴って増加することを示す結果を得た。
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