研究実績の概要 |
米国マサチューセッツ大学において申請者が主催していた研究室の総力をあげて発見されたショウジョウバエの食べる行動をコマンドするフィーディング・ニューロン(2013, Nature)を要とした神経回路上で形成される記憶を研究している。この記憶と神経細胞レベルの変化をリアルタイムで対応付けるという新しい研究法によって、記憶のメカニズムを明らかにしようとしている。パブロフの条件反射の実験では犬の摂食行動(餌が無条件刺激)にメトロノームの音などの条件刺激を連合した。ハエの摂食行動を観察しながら脳内を観察する方法はすでに開発しているが(2012, JOVE)、このライブ実験系を用いてパブロフと同様な実験を行うには、一匹のハエを定位した状態でパブロフのイヌが示したような行動変化を起こさせる必要がある。 米国の申請者の研究室のポスドクであった櫻井晃(現在、当研究所研究員)による予備実験において「あらかじめハエにもたせておいた棒を離す」という条件刺激を、口吻へのショ糖水溶液の刺激(無条件刺激)による吻伸展に連合するという全く新しい条件反射パラダイムを作成することに成功した。昨年度、カルシウムイメージング法により、繰り返し学習が進むにつれてフィーディング・ニューロンの反応性が高まり、それによって、条件付けが強まっていくことを発見した。本年度は、この実験系で解剖されたハエを長時間維持し、その状態で記憶が維持されるよう、実験条件を整えた。米国での予備実験を発展させたこの二年間の成果によりこの画期的な実験法は確立し、条件反射に伴う脳内変化を単一細胞レベルで観察した世界で最初の例として、論文発表を準備している。
|