研究課題/領域番号 |
26892010
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
山本 昭範 東京学芸大学, 教育学部, 講師 (20733083)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 亜酸化窒素 / 作物残渣 / N2O同位体レーザー分光計 |
研究実績の概要 |
農業は、強力な温室効果ガスである亜酸化窒素(N2O)の最大の発生源である。本研究は、近年、農耕地において重要性が指摘されている作物残渣に由来するN2O放出のメカニズムを明らかにすることを目的としている。N2Oは主に好気的環境を好む微生物による硝化(硝化細菌や古細菌が関与)と嫌気的環境を好む微生物による脱窒(脱窒細菌や脱窒カビが関与)の2つの過程で生成される。26年度は、作物残渣から発生したN2Oの 生成プロセスの時間変化を明らかにするため、土壌培養試験を行った。土壌培養試験では、日本の代表的な土壌である黒ボク土と先行研究で残渣由来のN2O発生量の大きいことが報告されているキャベツ、加えて、作物残渣の違いを考慮するため、科が異なるが栽培形態の似ているレタスを用いた。生成プロセスの時間変化を明らかにするため、N2O同位体レーザー分光計によりN2O同位体比を測定した。 培養実験は、3つの土壌水分条件(55%、70%、90%WFPS)において、N2O放出、N2O同位体比、土壌中および作物残渣中の無機態窒素濃度の時間変化パターンを調べた。N2O放出の時間変化パターンは、作物残渣によって異なり、レタス残渣の方が残渣施用後すぐにN2O放出が増加した。しかし、キャベツ残渣、レタス残渣ともに、土壌水分条件によってN2O放出パターンに明らかな違いは見られなかった。また、N2O同位体比(平均窒素同位体比:δ15Nbulk、NNO分子内における15N分布の偏り:SP)は、キャベツ残渣、レタス残渣ともに残渣施用後に大きく変化した。N2O同位体比の時間変化パターンは作物残渣間で異なる傾向を示した。N2O同位体比の変化パターンや土壌中のNO3濃度、作物残渣中のNO3濃度の変化から、作物残渣施用後のN2O放出の増加は主に脱窒の寄与が大きいことが示唆されたが、今後の詳細な解析が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、まず作物残渣に由来するN2O放出の生成プロセスの時間変化を明らかにすることを目的とした。そのため、いくつかの条件の下で土壌培養実験を行い、作物残渣施用後のN2O放出やN2O同位体比などの時間変化を調べた。その結果、作物残渣施用後のN2O同位体比は短期的に大きな変化を示すことを明らかにした。また、詳細な環境依存性を明らかにするための土壌培養実験および実際の圃場における実験に向けた環境整備を行った。以上から、当初の目的を達成したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
26年度は、いくつかの条件の下で土壌培養実験を行い、作物残渣施用後のN2O放出およびN2O生成プロセスの時間変化を明らかにした。27年度は、引き続き土壌培養実験を行い、生成プロセスの時間変化パターンや生成プロセスの環境依存性の解析を進める。26年度は日本の代表的な土壌である黒ボク土を用いたが、土壌タイプもN2O放出に影響することから、27年度は複数の土壌を用いて培養実験を行い、作物残渣施用後のN2O放出や生成プロセスの時間変化パターン、環境依存性を詳細に明らかにする。加えて、実際の圃場において、作物残渣施用後のN2O放出およびN2O同位体比の測定を行い、作物残渣に由来するN2O放出の生成プロセスの時間変化パターンを明らかにする。圃場実験では、作物残渣の影響に加えて、気温や降水量などの環境条件の影響を受けてN2O放出や生成プロセスが変化することが考えられる。そこで、圃場実験における測定結果と土壌培養実験における測定結果を用いて解析を行い、作物残渣に由来するN2O放出の生成プロセスの時間変化を定性的に明らかにする。また、アイソトポマー比解析を行い、作物残渣に由来するN2O放出の生成経路(硝化、細菌脱窒、カビ脱窒)の割合を明らかにする。
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