本研究では、周術期の侵害ストレスが腸管粘膜バリア機能に与える影響に着目し、周術期における硬膜外鎮痛が免疫応答に与える影響について明らかにすることを目的としている。 腹腔内臓器血流量へ硬膜外鎮痛が与える影響を調べるために、非侵襲的な測定が可能なPerfusion CTを用いて行った。その結果、犬の第13胸椎にカテーテル先端を留置した硬膜外鎮痛により腹腔動脈は有意に拡大し、十二指腸、膵臓でMaximum parenchymal blood flow (ml/100g/min)は有意に低下した。 また、侵害刺激が加わる開腹下で採材した十二指腸および直腸組織におけるサイトカイン(IL-6、IL-12p35、IL-12p40)のmRNA発現量をリアルタイムPCRを用いて測定した。その結果、犬の第13胸椎にカテーテル先端を留置した硬膜外鎮痛の開始1時間後および術中ストレスを想定した低血圧(平均動脈血圧50mmHg程度)状態に30分間維持した場合のサイトカインの発現量は、硬膜外鎮痛の有無によって明らかな違いは見られなかった。 今回の研究から、周術期の腸管粘膜におけるサイトカインのmRNA発現については、現段階では術中期間で明らかな影響は観察されなかった。しかしながら、硬膜外鎮痛は鎮痛領域である腹腔動脈を有意に拡張させ、臓器血流速へ影響を与えることが明らかとなったため、今後はさらに長期間の影響を検討する必要があることを示す研究結果となった。
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