研究課題/領域番号 |
26892027
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
上谷 幸治郎 立教大学, 理学部, 助教 (20733306)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 熱物性 / セルロース / ナノ材料 |
研究実績の概要 |
本年度は、半透明なセルロースナノファイバー(CNF)不織シートの熱拡散率を、非定常法の一つである周期加熱放射測温法により正しく評価するための前処理法を確定させた。測定時の加熱光が試料を透過せず十分吸熱され、また周期加熱による温度変化を検出するための放射測温が可能となるよう、試料表面に黒化層を形成し放射率を一定とすることで、測定系理論に合致した傾向の温度応答が観測された。この前処理法を以降の測定に活用し、またシートの厚さ方向および面内方向の物性値を独立して測定することで、CNF材料そのものの熱伝導特性を具体的に評価した。 当初の計画の通り繊維長・繊維径・相対結晶化度など異なる特徴のCNFを用い、熱物性に及ぼす影響を系統的に調査した。非定常法を用いた利点として熱拡散率の観測が可能となった結果、同じセルロースI型結晶においても面内方向の熱拡散率値が大きく異なり、結晶の平均断面積に強く相関することが見出された。測定可能な範囲の繊維長に対し熱拡散率が相関しないという結果から、セルロースの結晶幅が温度伝搬に支配的であると示された。すなわち、フォノンの平均自由行程が系の代表サイズによって制限されるサイズ効果の存在が示唆された。シート厚さ方向の熱拡散率がCNF種類によらずほぼ同一であり、CNF表面の官能基を修飾した効果が顕在化しなかった結果から、不織シート内のCNF界面積において界面熱抵抗が大きいことが示唆された。CNFシートの熱伝導特性は、界面熱抵抗を含んだ上で繊維の結晶幅に主に影響される特徴と考えられる。本結果は、CNFの熱物性を用いた材料応用に対して重要な基盤的知見と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画の通り、測定に必要な前処理法を確定し、その後の観測に活用した。また予定通り多くの原料から異なる特徴のCNF材料を調整し、結晶構造解析や配向性評価等を含めて系統的に解析を進めた。その結果、当初予測しなかったサイズ効果の存在が示唆された。この結果の解釈に時間を要したが、より本質的な現象の解明に成功したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
実験から明らかになったサイズ効果という現象を解析し、学会および国際学術誌において報告し議論に供することを優先的に行う。事前に計画していたCNF1本の熱伝導率の推定について、サイズ効果が発現する場合、繊維の結晶サイズによって物性値が制限されるため、「1本の熱伝導率」は見かけの物性となり本質的な意味を持たない。従ってこれまでに判明した、結晶幅が熱物性に対して実質的に影響するという特徴を用いて材料応用に生かすことが、本研究の最終目標である「透明・低熱膨張・熱伝導性」を有する材料の設計に対し重要と考えられる。今後は、透明性および熱伝導率を上昇させる試みを進め、CNFの特徴である低熱膨張性を同時に発揮する新規複合材料を創製する。
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