前年度に決定した熱拡散率測定の前処理法を用いて、様々な原料から作製したセルロースのシート材料について熱伝導特性を調査した。繊維が積層する厚み方向では熱拡散率が低く、面方向では高い熱拡散率が観測されたことから、繊維界面における熱抵抗が大きいことが示唆された。すなわち、シート中の繊維構造が伝熱特性に影響し、配向性が重要な要素であることが判明した。シート面方向における解析から、熱はセルロースの結晶を伝搬し、その太さに依存する傾向が明らかになった。最も太い繊維によるシートは、既存のプラスチックフィルムの約3倍高い熱伝導性を見出した。ラメラ結晶と非晶が混在する既存プラスチックフィルムに比べて、高い結晶化度を有する伸びきり鎖結晶のセルロースナノファイバーが熱を伝搬しやすい構造であることが示された。一方、不織シートにおける繊維間の空隙はナノレベルで小さいことが文献から予測された。そのため、シートに内包された空気を介した対流熱伝導はほとんど生じておらず、気体は断熱的であることが予想される。従ってセルロースナノファイバー製シートの熱伝導は、骨格であるセルロースの構造が大部分を担っていることが考察された。今回作製したセルロースナノファイバーによるシート材料は、これまで報告されている通り、熱に対する寸法変化が小さい低熱膨張材料であることが確認された。従来から断熱建材として利用される天然セルロース繊維をナノレベルまで微細化し、高密度のナノファイバーシート材料とすることで、熱伝導性と低熱膨張性を併せ持つ機能材料に変換できることが示された。
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