研究実績の概要 |
胎児期の母の受動喫煙曝露による児の注意欠損・多動性障害(ADHD)発症に及ぼす遺伝環境交互作用の影響を解明するために、出生前向きコホート研究「環境と子どもの健康に関する北海道スタディ(以下、北海道スタディ)」の母児を対象に検討した。 北海道スタディのうち2007年12月生まれまでの8歳児でADHD-RS得点が得られたのは3,263名だった。ここから症例群:対照群=1:4とし、児の性別と母の出産年齢(±5歳)でマッチングさせ1,491名抽出したところ、非受動喫煙群(妊娠後期の母体血漿コチニン値; 0.21 ng/mL以下)552名、受動喫煙群(0.22-11.48 ng/mL)812名、喫煙群(11.49 ng/mL以上)127名となった。 母の妊娠前体重、身長、妊娠中飲酒状況、出産歴、教育歴、世帯収入、在胎週数で調整したロジスティック回帰分析で検討したところ、非受動喫煙群の児と比較して、受動喫煙群の児のADHDのオッズ比は1.17 増加したものの有意ではなかった(95%信頼区間(CI): 0.84-1.63; P = 0.365)。一方、喫煙群の児のADHDのオッズ比は1.71 増加し有意だった(95% CI: 1.01-2.90; P = 0.045)。 胎児期の母の受動喫煙曝露が8歳児のADHDのリスク増加に影響を及ぼさず、そして遺伝環境交互作用も関与しないと考えられた。しかし、胎児期の母の喫煙曝露による8歳児のADHDのリスク増加に遺伝環境交互作用を及ぼすことは否定できなかった。 解析対象者の1,491名について母体血DNAおよび臍帯血DNAを抽出した。今後、母体血DNAおよび臍帯血DNAの化学物質代謝および神経伝達代謝関連遺伝子多型を解析することで、母の喫煙曝露による8歳児のADHDのリスク増加に遺伝環境交互作用が関与するかについて、さらに明らかにしていく。
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