研究課題
ヒト造血幹細胞は極めて少数しか生体内に存在しない為、その採取や分離精製及び培養評価には困難が伴う。よってヒト造血幹細胞の放射線感受性に関して不明な点が多くなっている。平成26年度はヒト臍帯血より造血幹/前駆細胞(以下:CD34抗原陽性細胞)を高度に分離精製し、分離したCD34抗原陽性細胞にX線を暴露後早期の段階で網羅的遺伝子解析データを算出することで、放射線感受性を司る遺伝子の探索を行った。以下、本年度行った解析項目を示す。1)放射線暴露ヒト造血幹/前駆細胞の網羅的遺伝子解析2)放射線暴露ヒト造血幹/前駆細胞の細胞生物学的、分子生物学的解析CD34抗原陽性細胞に2GyのX線を暴露し、暴露後6時間の時点の遺伝子解析において、様々な遺伝子の発現量が変化している中でも、特に17個の遺伝子の変動が大きいことがわかった。また、様々な遺伝子のregulatorとしての機能を持ち、がん遺伝子の一つとしても知られているMYC遺伝子の発現量がX線暴露後の造血幹細胞内において、特異的に上昇していることが分かった。造血幹細胞は、数日から数十日しか機能しない成熟血球を生涯にわたって産生し続ける生体の恒常性維持に必須の細胞である。しかし、高い増殖能と未分化性を持っているため、放射線感受性が高く、標的となりやすい細胞だと知られている。今年度得られた結果は、がん遺伝子の一つであるMYC遺伝子がヒト造血幹細胞の放射線感受性を左右する重要な因子である可能性を示唆しており、将来的な発がんリスク評価にも直結する非常に貴重な知見が得られた。
3: やや遅れている
造血幹細胞は病院より提供していただいたヒト臍帯血より分離精製し各種実験に用いた。造血幹細胞は実験を行う度に臍帯血より分離精製し、実験に使用しない臍帯血は凍結保存していた。しかしながら凍結保存した臍帯血より造血幹細胞の分離精製を試みた際、搾取できる細胞数が減少し、及び凍結のダメージによって機能異常を示す細胞が多く、予定していた解析項目全てを行うことが出来なかった。一方で、放射線暴露後の網羅的遺伝子解析は全て予定通り行うことが出来ているため、次年度は冷凍保存した臍帯血を用いることなく、実験に必要な細胞の確保を出来るよう工夫をする。
本年度は、長期冷凍保存した臍帯血からの造血幹細胞の精製制度が想定外に低く、予定していた全ての解析項目を行うことが来なかった。次年度は実験の直近に臍帯血を確保することで細胞の精製精度の問題を解決し、実験推進に努める。
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