本研究では成育限界期のヒツジ胎仔に低用量バゾプレシンを投与し,その主要臓器の血流量ならびに抵抗値の変化を解析することによって,成育限界児の相対的副腎不全に低用量バゾプレシンを投与した場合の安全性と有効性について考察することを目的とした. 平成27年度に慢性実験系のもとで子宮内のヒツジ胎仔5例(96.2±0.4日,平均妊娠日齢±SD,ヒト妊娠26週相当)に対して,ヒトでの臨床投与量と同等な低用量バゾプレシン量0.20±0.05mIU/kg/minを持続点滴した.結果は脳,心筋,副腎,腎,小腸,その他の臓器でバゾプレシン持続投与前後に有意な血流量の変化や血管抵抗の変化を認めなかった.これは,これまで報告されている血流の再分配が低用量バゾプレシン投与では誘導されなかったことを示している. 次に各臓器の血流量・血管抵抗と主要動脈の超音波ドップラー波形から得られるresistance index (RI:血管抵抗の指標) との関連性を解析することによって,RIが臨床で低用量バゾプレッシンを安全に使用するための指標となるかどうかを検討した.成育限界期のヒツジ胎仔肺は著しく未熟であるため人工呼吸器では管理できない.そのため本研究ではポンプレス人工胎盤システムを出生後に装着させてデータを採取した. ポンプレス人工胎盤システムを装着したヒツジ胎仔6例(103.3±2.2日,ヒト妊娠28週)に対して,バゾプレシン0.67±0.38mIU/kg/minを持続点滴し,投与前後の中大脳動脈と腎動脈のRI値とcolored-microsphere法で算出したそれぞれの血管抵抗値の相関を調べた.結果は中大脳動脈の相関係数|r|=0.0428,腎動脈の相関係数|r|=0.3142で相関を認めなかった.この結果から,低用量バゾプレシン投与時にRIは血管抵抗の指標とはならないと考えられた.
|