精神病発症リスク状態(ARMS)と非精神病性疾患との関連が注目されている。中でも、ARMSと自閉症スペクトラム障害(ASD)とは、遺伝・生物学的背景や臨床症状の側面から併存や鑑別が問題となる。本研究は、専門外来で操作的にARMSと診断され、後の精神病移行の有無も判明した集団を対象として、その発達特性を後方視的に調査した。本人、養育者に対して各々自閉性スペクトル指数日本版(AQ-J)、対人コミュニケーション質問紙(SCQ)を施行し、ARMSの包括的評価(CAARMS)得点、精神病移行との関係を調査した。 本年度は、通院中・通院中断中の既存症例からデータ収集を行った。また、ARMSと併存症に関する学会発表を行い、本調査の結果解釈に必要な情報収集と意見集約を行った。未回収の一部事例を除き、データベースへの入力と仮解析を実施した。 解析上、SCQでカットオフ値を超えたのは39名中2名と先行研究と同程度であったが、AQ-Jでは50名中22名(カットオフ26点の場合)、7名(同33点)と高率にASDの傾向を疑うべき事例が含まれることが分かった。下位項目では、AQ-Jの社会的スキル、合計得点とCAARMSの知覚の異常の強度得点との間に有意な正の相関を認めた。精神病移行した事例数が少なかったこともあり、AQ-J、SCQ得点と精神病移行との間に有意な関連は見いだせなかったが、移行者ではAQ-Jが目立って高値だった。また、移行者においてAQ-Jの想像力項目は有意に高値だった。 検査手法上の限界もあり、自覚・他覚尺度間では必ずしも総得点・下位項目得点が相関しなかった。このことが、両者の結果が一致しない一因だった可能性がある。そのため、残るデータを回収し解析対象を増やした上で、最終解析を行い、慎重に解釈を行う必要がある。今後、最終的なデータ回収、本解析、論文化を進める予定である。
|