我々のこれまでの研究成果から、歯原性上皮細胞においてNGFが低親和性受容体p75を介して細胞増殖を促進することが明らかとなった。 完全長p75(pEF6/p75)およびp75細胞内ドメインを欠失させた発現ベクター(pEF6/p75-ΔICD)を作製、それぞれ歯原性上皮細胞株(SF2細胞)に遺伝子導入した。細胞増殖の比較を行ったところ、完全長p75過剰発現細胞において有意に細胞増殖が誘導された。一方、p75-ΔICD過剰発現細胞では増殖促進は認められなかった。これより、細胞内ドメインがNGF-p75シグナルによる増殖促進に必要であることが示された。 ウェスタンブロット法によりNGFがp75に結合後のシグナル伝達経路を解析を行ったところ、p38やIκーBと比較してERK1/2のリン酸化が強く認められた。また、ERK1/2の上流分子MEKの阻害剤U0126で処理を行ったSF2細胞においては、U0126の濃度依存的にNGFによる細胞増殖が抑制された。これより、NGFはNGFに結合後、その下流でERK1/2をリン酸化することにより歯原性上皮細胞の増殖シグナルを伝達していることが示唆された。 p75はTNF受容体ファミリーに属し、神経細胞等の増殖や生存、アポトーシス制御など多岐にわたる機能を発揮することが報告されている。歯胚発生時において、p75がエナメル芽細胞への分化能を有する内エナメル上皮細胞に発現していることから、p75発現細胞の細胞内シグナル解析により、歯の再生医療に用いる細胞ソースとして未分化な歯原性上皮細胞の効率的な大量精製法や増殖促進法の開発への基礎研究となると考えられる。
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