研究課題/領域番号 |
26893025
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
大瀧 陽一郎 山形大学, 医学部, 医員 (80732693)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | ITCH / ROS / Apoptosis / Myocardial infarction |
研究実績の概要 |
虚血性心筋症は、心筋梗塞後にさまざまな細胞内シグナルが複雑に絡み合い発症する。HECT型ユビキチン転移酵素は、タンパク質をユビキチン修飾することで分解し、細胞内シグナルを調節することが報告された。HECT型ユビキチン転移酵素ITCHは、標的タンパク質を分解することで、細胞死や細胞形態を調節する。本研究では、ITCHが標的タンパク質を分解することで、心筋細胞内シグナルに与える影響を検討するとともに、マウス心筋梗塞モデルや虚血再灌流モデルを作成し、心保護的に働くか検討を行うことを目的とした。 平成26年度は、HECT型ユビキチン転移酵素ITCHを過剰発現したITCHトランスジェニックマウスを確立した。こちらに対して冠動脈結紮による心筋梗塞モデルを作成し、心機能評価および生存率を比較検討した。ITCH過剰発現マウスは、野生型マウスと比較して、7日、14日、28日のいずれの段階においても、有意に心収縮能が保持されており、左室拡大は軽度であった。ITCH過剰発現マウスは心筋のリモデリングを抑制することを発見した。また、心筋梗塞作成後28日における生存率を比較したところ、ITCH過剰発現マウスは野生型マウスに比較して有意に生存率が高率であった。これらの結果を踏まえて、ITCHを心筋特異的に過剰発現することで心筋保護的に働くことが示された。 ITCHが虚血性心筋症発症に関与していること、心保護的に働く可能性が示唆され、新たな治療標的となる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の実験系は、細胞培養による細胞実験とITCH過剰発現マウスに対する冠動脈結紮による虚血再灌流モデルおよび心筋梗塞モデルを作成する動物実験から構成される。心筋梗塞モデル作成は、技術を要すること、経時変化を観察する必要があり、最も時間が必要な実験系であった。平成26年は、ITCH過剰発現マウスに対して心筋梗塞モデルを作成し、経時的な心機能を観察し、ITCHを心筋特異的に発現することで心機能が保持されることを示した。また、ITCH過剰発現マウスは野生型マウスに比較し、心筋梗塞後28日における生存率が改善した。以上からITCHを過剰発現すると心筋保護的に働くことが明らかになった。心筋梗塞後28日に、マウスを屠殺し、心臓を摘出し、サンプルを凍結保存した。今後は、ITCHが心筋組織においてp73やDvlと相互作用するかこれらのサンプルを用いて、ImmunoprecipitationやWestern blotで解析を行っていく。また、ITCHと標的タンパク質のmRNAに関しても、RealtimePCR法を用いて解析を行っていく予定である。 他方、細胞実験は、p73やDvlの抗体や試薬が先述したITCHの機能解析と同様のものを使用予定である。細胞実験は新生仔ラット心筋培養の技術やITCHのプラスミド、siRNAを導入する技術を確立しており、細胞実験は開始している。細胞実験の実験系は約1週間で完了するため、心筋組織での検討と平行して効率的に行っていく予定である。 また、虚血再灌流モデルを同様に作成していく、心筋梗塞モデルと比較して時間的には短時間で作成し、サンプルを回収することが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年の実験計画は、細胞実験を中心に施行していく。まず、心筋細胞刺激に対するITCHと標的タンパク質の発現量の変化を検討する。新生仔ラットの初代培養心筋細胞を用いて、H2O2刺激や低酸素刺激に対するITCHや標的タンパク質の発現量の変化を、ウェスタンブロット法やリアルタイムPCR法でタンパク質レベルおよびmRNAレベルで確認する。低酸素刺激やアンギオテンシン刺激に対してITCHが減少するか検討する。また、H2O2刺激や低酸素刺激に対して、p73、BID、Dvl-1の発現量の変化を検討する。 次に、ITCHと標的タンパク質の相互作用を検討する。まず、免疫沈降法で、ITCHと標的タンパク質の結合を確認する。次に、アデノウィルスベクターを用いて、ITCHを心筋細胞へ導入し、標的タンパク質の発現量の変化をタンパク質レベルおよびmRNAレベルで検討する。リポフェクタミン3000を用いて、ITCH siRNAを心筋細胞へ導入し、同様に標的タンパク質の発現量を検討する。ITCHを過剰発現することで、標的タンパク質の発現量が低下した場合、非特異的プロテアソーム阻害剤(MG-132)を用いて標的タンパク質であるp73、BID、Dvl-1がユビキチン修飾によるタンパク質分解を受けるか検討する。 最後に、ITCHノックダウンもしくは過剰発現後、心筋負荷刺激を行った際の細胞内シグナルの検討を行う。新生仔ラット心筋細胞において、ITCHの過剰発現やsiRNAを用いて機能的に抑制した際に、H2O2刺激や低酸素刺激に対する心筋細胞のアポトーシスを評価する。ITCH過剰発現が、エンドセリンやアンギオテンシンといった心筋肥大刺激に対してWnt signalを調節するか検討する。また、ITCHの過剰発現が心筋細胞の肥大に与える影響を小麦麦芽レクチン染色を用いて組織学的に検討する。
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