研究実績の概要 |
1)TrkB作動薬は神経障害性疼痛モデルの内因性鎮痛機構を再活性化する可能性がある。神経障害性疼痛の動物モデルでは神経障害後慢性期(術後6週)にカプサイシンによる痛み刺激により誘発される内因性鎮痛機構の減弱が見られた。一方で、神経栄養因子受容体のひとつであるBDNF受容体の作動薬である7,8-Dihydroxyflavone(7,8-DHF)による処置(5mg/kg皮下投与)を術後6週から5日間行ったところ、Vehicle処置群と比較して有意に内因性鎮痛が増強した。 2)TrkB作動薬はノルアドレナリン、セロトニンを介する鎮痛を増強する可能性がある。上記処置を行ったラットにノルアドレナリン、セロトニン再取り込み阻害薬であるデュロキセチン(10mg/kg腹腔内投与)を投与し、1時間後にvon Frey Filamentにより足底のHypersensitivityを測定したところ、7,8-DHF処置群ではデュロキセチンの鎮痛効果が増強した。 3)正常動物においてはTrkB作動薬処置は内因性鎮痛機構に影響を与えなかった。また、脊髄後角におけるDopamine Beta Hydroxylaseの免疫染色像にも影響を与えなかった。 以上本年度の研究から、7,8-DHFによる処置は慢性痛患者で減弱していると考えられている内因性鎮痛機構を正常化する可能性がある。また、従来の治療で十分な鎮痛が得られない患者も7,8-DHF処置により現行の鎮痛薬でも良好な鎮痛が得られる可能性が示唆された。正常動物の疼痛行動には影響がなかったが、副作用の検索という意味合いでは、他の脳神経系機能についてはさらなる検討が必要と考えられる。
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