研究課題/領域番号 |
26893042
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
堀 由起子 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (80610683)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / 神経科学 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)の発症原因は、神経細胞から産生されるアミロイドβペプチド(Aβ)であるとする「アミロイド仮説」が広く支持されている。そのため、脳内におけるAβ量制御メカニズムの解析は重要である。本研究では主にAβ量に対するグリア細胞の寄与という観点から研究を行う。中でも特に神経-グリア細胞間コミュニケーションに着目し、その候補分子として両細胞におけるEph/ephrinシグナルとAβ量制御の関係を分子レベルで明らかにしたいと考えている。 Ephの中でも特にEphA4に着目し、①EphA4シグナルの変化がAβ量に及ぼす影響についてと、②EphA4の代謝変化についての2つの観点から解析した。①に関しては、初代培養神経細胞・グリア細胞共培養系を用い、薬剤投与などによりEphA4シグナルを変化させたときのAβ量の変化を解析した。その結果、EphA4のシグナル変化に依存したAβ量制御機構がある可能性が示唆される結果を得た。②に関しては、特にEphA4の切断による代謝過程に着目した。EphA4が細胞外領域で切断を受けることを明らかにし、またEphA4切断が刺激によって影響をうけることを示した。この結果から、EphA4の切断変化によりEphA4のシグナル変化が起こる可能性が推測される。 また一方でEph/ephrinシグナルとは別に、③FDA承認を受けた薬剤のAβ量に対する影響をin vitro、in vivo両面から検討した。結果、その効果として、Aβ凝集を抑制すること、microgliaのAβ取り込み亢進によりAβクリアランスが上昇し、脳内可溶性Aβが減少することを示した。これらの結果はグリア細胞による貪食でAβ量制御が可能なことを示し、その分子機構の解明が重要であることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経-グリア細胞間コミュニケーションとしてEphA4シグナルに着目して検討を行っているが、そのシグナルの変化でAβ量が変化するという結果が見えてきており、候補分子としてEphA4を選択したことは正しかったと言えると思われる。今後もEphA4に着目していくことで研究目的を達成することができると思われるので、おおむね順調に進展していると考えている。一方で、現段階では神経-グリア細胞間にまでは迫ることができていない。この点は今後さらに検討していく必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の結果を踏まえた上で、本年度はEphA4の細胞間-細胞間、特に神経-グリア細胞間コミュニケーションとしての役割に焦点をあてて解析する。また、Eph/ephrinシグナル以外にAβ量を制御する新規因子の探索にも着手する。 そのため、まず培養細胞系を用い、EphA4の代謝過程が細胞間-細胞間EphA4シグナルに与える影響を解析すると共に、それぞれの条件下におけるAβ産生への影響についても検討を行う。また、EphA4シグナルとAβ産生をつなぐ具体的な分子機構についても解析を行う。さらにこれらの結果が神経-グリア細胞間においておこるかどうかを検証するために初代培養神経細胞・グリア細胞を用いた共培養実験を行うほか、レンチウイルスによる遺伝子導入や薬剤の脳内投与を行ったマウス脳からmicrodialysis法によって脳間質液を採取することより、Aβ量の変化をin vivoでも検証する。 Aβ量を制御する機構として、特にグリア細胞によるAβの取り込み機構に着目し、新規関連分子の同定も試みる。具体的には、蛍光ラベルしたAβの取り込みを指標に、CRISPR-Cas9システムを用いたゲノム編集技術によるゲノムワイドなスクリーニングを行う。また同定した遺伝子について、その機能解析を行う。
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