研究課題/領域番号 |
26893044
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
水野 忠快 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (90736050)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | SLCトランスポーター / 炎症制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、疾患時に発現・機能変動するトランスポーターは疾患状態に応答して物質輸送を制御しており、通常条件下ではその重要性が見出されずにいるという仮説のもとに、動脈硬化症の病態に影響する物質輸送を担う、疾患修飾因子としてのトランスポーター群を新規に解明することを目的とする。まず網羅的なマイクロアレイのデータベースであるGEO profilesを用いて、候補となりうるトランスポーターの探索を行った。マクロファージ(Mf)に対しアセチル化LDLや酸化LDLを処理した泡沫化モデル細胞において発現量が変動している遺伝子をピックアップし、その中から現状基質が明確になっておらず機能が未知とされているトランスポーターに着目した。以下これをSLC-Xとする。次に同データベース上で、本遺伝子が他にどのような因子によって変動するかを調査したところ、LPSなどの炎症刺激によっても発現量が強く上昇することを見出した。動脈硬化病巣においては泡沫化等により細胞死が誘導された際にはその細胞内容物等の流出といった危険信号がToll-like receptor等を刺激し炎症誘導しているものと推察できる。すなわち本トランスポーターは炎症制御を介して動脈硬化病態に影響を与えている可能性がある。そこで炎症との関係性を検討するために、チオグリコレート誘導マウス腹腔内Mfに対して典型的な炎症刺激であるLPS処理を施したところ、SLC-Xの発現量が非常に強く誘導されることが明らかとなった。次にMfの主要な機能であるサイトカインの分泌に対するSLC-XのKDの効果を評価した結果、主要な炎症性サイトカインであるIl6のmRNAが2-3倍程度上昇することが確認された。さらにSLC-X KD下ではNOの産生上昇も認められた。これらの結果より、SLC-Xは炎症刺激に応答して発現し、Mfの炎症制御に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まずマイクロアレイのデータベースより、動脈硬化病巣で見られる泡沫化細胞のモデル細胞において発現量が変動するトランスポーター、SLC-Xを見出した。次に本トランスポーターのmRNA、タンパク質レベルでの解析系を立ち上げ、SLC-Xが典型的な炎症刺激であるLPS刺激によって実際にmRNAレベル、タンパク質レベル双方において非常に強く誘導されてくることを確認した。さらにsiRNAを用いたノックダウンスタディにより、SLC-Xノックダウン下では炎症性サイトカインの発現量が上昇するというフェノタイプを見出した。動脈硬化が炎症性疾患であることや、動脈硬化部位における死細胞からの危険信号が炎症を誘導していることを考慮すると、SLC-Xは、炎症制御を介して動脈硬化病態に影響を与えている可能性がある。すなわち当初の目的通り動脈硬化の修飾因子になりうるトランスポーターを見出すことに成功したものと考えており、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画書通り基質の探索に取り掛かっている。予備検討の結果、本トランスポーターは主に細胞質内の特定のコンパートメントに存在しており、まずはそのコンパートメントの解析を免疫染色法により進める予定である。次に当該コンパートメントを濃縮したサンプルをメタボロームによって解析し、SLC-Xのノックダウンの有無による比較を行うことで基質同定を試みる。また、SLC-Xノックダウン時にIl6等の炎症性サイトカインのmRNA発現量上昇が認められたことから、Il6の発現量に影響を与えるうる低分子から基質を見つけ出すアプローチもとっている。具体的には、まずIl6 mRNA発現量上昇に至るNFkBによるシグナリング経路の各因子に対するSLC-Xノックダウンによる影響を一つずつ検討していき、影響を受ける箇所を見出す。そして当該因子に影響しうる低分子を探索することで基質同定につなげたいと考えている。同解析はどのようにしてSLC-Xを介した物質輸送が炎症制御に寄与しているかを検討する上でも重要であり、現在鋭意遂行中である。加えてCRISPR/Cas9システムを用いたSLC-Xノックアウトマウスの樹立に着手した。CRISPR/Cas9システムは従来法に比べ短期間でノックアウトマウスを作製可能であり、順調にいけば年内には完成する予定であるため、当初の予定通りノックアウトマウスを使用したin vivoでの動脈硬化への影響を検討することが可能であると考えている。
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