研究実績の概要 |
ピロリ菌の慢性感染は、胃炎、胃潰瘍、胃がんそしてMALTリンパ腫の誘導因子であることが多くの成果から示されている。近年、ピロリ菌の第一次転写産物の網羅的発現解析が行われ、ピロリ菌はmRNA、rRNA、tRNAといった広く知られているRNA群に加え、多数の小さなRNA(Bacterial small RNA, sRNA)を有していることが明らかになった。しかしながら、ピロリ菌におけるsRNAの役割についてはほとんど解明されていない。本研究では、ピロリ菌がタンパク質の他にsRNAを宿主に分泌している可能性、さらには病原性に関与している可能性について模索した。 我々は当初、ピロリ菌のsRNAが、ピロリ菌の保有するⅣ型分泌装置を介して宿主に分泌されていることを予想していた。しかしながら、ジギトニン溶解法を用いた実験系では、そのようなRNAを検出することはできなかった。そこで、宿主に分泌されるRNAを直接測定するのではなく、単純にピロリ菌の体外に分泌されるRNAを測定する実験を試みた。その結果、ピロリ菌の体外に特異的に分泌されているsRNAを複数同定することに成功した。分泌されたsRNAは、菌体外でも安定的に存在していることも実験的に示された。このsRNAを含んだ溶液をヒト胃がん由来の細胞株であるAGS細胞に添加すると、sRNAがAGS細胞内に取り込まれることが確認された。この結果は、ピロリ菌が分泌したsRNAが宿主細胞内でも機能している可能性を示唆している。また、本研究期間中に、ピロリ菌の病原性を発揮する領域にコードされているsRNAの検出にも成功した。現在、これらのピロリ菌の病原性におけるこれらのsRNAの機能について解析を進めている。
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