研究課題
免疫細胞の一つであるマスト細胞は、皮膚、腹腔などの結合組織と肺、腸管といった粘膜組織において異なる性質を発現することが古くから知られている。しかしながら、この組織特性の獲得・調節メカニズム、さらには疾患への関与については不明である。我々はこれまでに、体の様々な組織からマスト細胞を単離し、遺伝子の発現解析を試みることで、新たに部位特異的にマスト細胞に発現する遺伝子群を見出している。この遺伝子群の中から、皮膚に存在するマスト細胞に特異的に発現する分子群に着目をし、特に機能抑制モチーフを保持する分子についての解析を進めている。本研究課題の初年度では、機能抑制モチーフを保持する当該分子を欠損するマウスを入手し、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎といったマスト細胞が関与する皮膚疾患マウスモデルを用いた解析を中心に行った。当該分子を欠損したマウスでは、接触性皮膚炎において皮膚の腫脹や好中球の浸潤などの病態が野生型マウスに比べて重症化することが明らかとなった。このことから、皮膚のマスト細胞を特異的に制御する機能調節機構の存在が示され、IgE非依存的な炎症反応に対して抑制的に働くことが明らかとなった。興味深いことに、当該分子は皮膚線維芽細胞からの刺激によってマスト細胞に発現誘導されることが明らかとなっている。詳細な機序については、線維芽細胞の機能をゲノム編集法を用いて制御し、マスト細胞との共培養スクリーニング法によってマスト細胞抑制分子の発現調節機構の解明を試みる。
2: おおむね順調に進展している
詳細なメカニズムについては不明な点が残されているが、本研究課題初年度において、皮膚組織特有のマスト細胞活性化制御機構の存在が示された。当該遺伝子を欠損するマウスを用いた解析から、当該分子が特に接触性皮膚炎に関与している可能性が示されている。また初年度において、ゲノム編集法を用いたex vivoの共培養系を確立させ、マスト細胞の機能制御因子の探索スクリーニング系として用いることが可能となった。さらに、皮膚炎誘導時におけるマスト細胞の挙動(遊走・血管透過性)と線維芽細胞の組織修復に焦点を当てた解析を行うために、新たなモデルマウスを作出し、2光子励起顕微鏡による生体イメージングが可能となった。初年度で得たイメージングの基礎的データをもとに、より詳細な解析を進めることが期待される。
マスト細胞活性化抑制分子による炎症抑制機序や、当該分子の発現のメカニズムを明らかにすることが次年度の課題として挙げられる。初年度に確立させたゲノム編集法を用いたex vivoの共培養スクリーニング系を駆使することで、当該分子の発現のメカニズムを明らかにする。さらに、皮膚炎誘導時におけるマスト細胞の挙動(遊走・血管透過性)と線維芽細胞の組織修復に焦点を当てた解析を行うためのマウスモデルを作出したことから、2光子励起顕微鏡によるイメージング法によって、当該分子の炎症抑制機序について、分子、細胞、個体レベルにおいて詳細な解析を進めていく。
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