EGFレセプターは、一般の細胞では増殖や分化など多くの重要な生命現象に関わっている一方で、多くのがん細胞で過剰発現しており、その無秩序な活性化が細胞の異常増殖に関連している。本研究では、EGFレセプターの活性化に必須のイベントである細胞外領域の二量化に着目した「二量化阻害」という新たな作用機序の抗EGFレセプター阻害薬リード創製を目的としている。本課題では、これまでに見出したEGFレセプター二量体阻害環状ペプチド1の構造最適化を指向したツール開発として、EGFレセプターの二量体界面に結合する新規ケミカルプローブを創製することを目指した。 平成27年度は、これまでの研究成果を基に、EGFレセプター発現型のヒト上皮系がん細胞上で環状ペプチド1と競合作用を示す蛍光標識体を検討した。その結果、環状ペプチド1のN末端にフルオレセインを標識したペプチド2を上皮系がん細胞の一つである類表皮癌由来細胞において生理条件下、環状ペプチド1と競合させることに成功した。競合の程度は蛍光量の減少量として捉えることができたため、本フルオレセイン標識ペプチド2は環状ペプチド1の構造最適化研究および新規二量化阻害活性分子の探索に応用できると期待される。 また、本フルオレセイン標識ペプチド2は、共焦点レーザー顕微鏡観察の結果、ヒト上皮系がん細胞に作用させると、細胞内のいくつかの小胞よりフルオレセイン由来の蛍光で染色される現象が観察された。そのため、本フルオレセイン標識ペプチドが生理条件下、細胞内に取り込まれることが示唆された。本現象とEGFレセプターとの関連性については、さらなる詳細な実験と検証が必要であるが、環状ペプチド1及び2は新たな細胞内輸送分子として応用できることを見出した。 さらに上記フルオレセイン標識ペプチドの改変した化合物の中から、細胞内に取り込まれる改変ペプチドを数種類見出すことに成功した。
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