研究実績の概要 |
従来の研究により、毛包の存在する皮膚における色素幹細胞の維持には、バルジ領域に存在するXVII型コラーゲンやTGF-betaシグナルが必要であることは明らかにされてきた(Cell Stem Cell. 2010;6:130-40, Cell Stem Cell. 2011;8:177-87.)。しかしながら、足底部をはじめとする毛包の存在しない皮膚領域における色素細胞の動態に関しては、未解明な点がいまだ多い。末端黒子型悪性黒色腫が好発する四肢末端部や爪部では組織学的に毛包が存在しないため、毛包幹細胞および色素幹細胞のニッチであるバルジ領域が存在しない点が特徴的である。 そこで本研究では、従来から注目されてきた悪性黒色腫のドライバー遺伝子、パッセンジャー遺伝子をはじめとする遺伝子改変マウスの掌蹠における色素細胞系譜の組織学的解析を行うこととした。Dctはメラニン合成酵素の一つであるドーパクロムトートメラーゼの略称であり、色素細胞系譜のマーカーとして汎用されている(Dev Biol.2000;225:424-36.)。Dctのプロモーター領域下にヒストンH2B-GFP融合遺伝子を導入した遺伝子改変マウス(Dct-H2B-GFPトランスジェニックマウスやDct-H2B-GFPノックインマウス)、悪性黒色腫モデルマウス(Braf;Ptenマウス、NRAS;Ink4a/Arfマウス)、細胞系譜解析マウスなどの交配マウスを作製、解析することで、掌蹠に存在する未分化な色素細胞のIn vivoラべリング、および創傷治癒後の恒常性維持のための仕組みやDNA損傷ストレス応答に対する形質変化の解析を行うことに成功した。これまでの研究で、①正常の色素幹細胞が汗腺分泌部に存在すること、②汗腺内の色素芽細胞は創傷治癒、DNA損傷によるニッチ内での異所性分化に抵抗性を呈する、③悪性黒色腫発症プロセスにおいて汗腺分泌部をニッチとする色素幹細胞が、がん幹細胞として寄与していることなどを示すことができた。
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