ポリグルタミン病は、遺伝性の難治疾患であり、異常タンパク質の凝集が病態形成の主因である。ポリグルタミン蛋白質の発現や凝集体形成は、様々な要因によって制御されており、その詳細なメカニズムは明らかではない。私達は、ポリグルタミン蛋白質の発現を抑制できる低分子化合物を同定しており、この標的分子を同定し解析することで、ポリグルタミン病の病態解明研究と治療法開発研究を行った。 「ポリグルタミン病の病態解明研究」に関しては、ポリグルタミン蛋白質の発現を抑制できる低分子化合物F7の標的分子の同定に成功した。この標的分子は、リソソーム機能の調節、オートファジー誘導活性を有する分子であり、F7が結合すると活性化が高まることが確認された。また、この標的分子を欠損させるとポリグルタミン蛋白質の発現が増加し、逆に過剰発現するとポリグルタミン蛋白質の発現が抑制された。さらに、F7誘導性のオートファジーを抑制するとポリグルタミン蛋白質の発現が増加することも見出した。即ち、F7は標的分子を活性化させ、その下流のオートファジーの活性化を介してポリグルタミン蛋白質を分解しているものと考えられた。 また、「ポリグルタミン病の治療法開発研究」に関しては、F7を合成展開して、より活性の高い新規化合物の開発に成功した。この新規化合物をアタキシンモデルマウスに投与したところ、ポリグルタミン蛋白質の蓄積が抑制され、神経病理が改善し、マウスの行動異常が改善した。即ち、ポリグルタミン病の治療に資する化合物の開発に成功した。
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