研究課題/領域番号 |
26893080
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
清水 逸平 新潟大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (60444056)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 心不全 / 褐色脂肪不全 / 褐色アディポカイン |
研究実績の概要 |
私はこれまで、肥満や糖尿病で白色内臓脂肪や褐色脂肪不全が生じることや、心不全時に白色内臓脂肪不全が生じることで、これらの老化疾患の病態が負に制御されることを明らかにした。これらの研究を通して、心不全や糖尿病において全身の代謝不全を介して病態が促進するという共通の分子基盤があることがわかった。褐色脂肪組織は熱産生器官として当初認識され、全身の代謝を制御する可能性を秘めた臓器であることが最近わかってきたが、心不全における褐色脂肪組織の役割は何もわかっていない。 本年度私がマウスを用いて行った実験により、心不全時には褐色脂肪組織が機能不全に陥り、メタボローム解析の結果全身の臓器障害をきたしうる様々な代謝産物が褐色脂肪組織内に蓄積することがわかった。褐色脂肪移植実験の結果、褐色脂肪不全を抑制すると圧負荷モデルにおいて心機能が改善することがわかった。また、心不全マウスの褐色脂肪組織を用いて行ったメタボローム解析の結果、解糖系やミトコンドリア代謝が著明に抑制されていることや、全身の臓器障害の引き金となりうるコリン関連中間代謝産物の蓄積が生じることがわかった。 また、肥満モデルにおいて褐色脂肪由来物質が存在するかDNAマイクロアレーを用いて検証したところ、Procollagen C-endopeptidase enhancer (PCPE-1)のmRNA(Pcolce)レベルが有意に上昇し、タンパクレベルでも発現が確認されることがわかった。肥満の多くに脂肪肝が合併し、慢性炎症を形成するとNonalcoholic steatohepatitis(NASH)の病態に陥り、線維化が進行し肝硬変へと進展するが、肝臓の線維化が進む機序は殆どわかっていない。そこで、PCPE-1が肝臓の線維化を促進することでNASHの病態を増悪させるか検証したいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究により、心不全時に褐色脂肪不全が生じること、褐色脂肪不全を抑制すると心不全が抑制されることがわかった。また、肥満モデルマウスを用いた実験により、肥満時にPCPE1という褐色脂肪組織特異的な分泌タンパク質が血液中で増加することがわかった。これらの結果を踏まえ、次年度の研究にて詳細な分子機序を解明してゆく予定である。 DNAマイクロアレー、メタボローム解析により膨大なデータが生じたが、バイオインフォマティクスの専門家のサポートにより効率的に実験を進めることができた。また、Crispr/Cas9を用いて効率的に遺伝子改変マウスを作成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
以上の結果を踏まえ、今後以下の通り研究を展開する予定である。 1:心不全モデルの検証 1)褐色脂肪不全が生じる機序の解明:過剰な交感神経シグナルや低酸素シグナルを介した褐色脂肪組織の恒常性破綻機構を解明する。褐色脂肪組織の交感神経除神経モデルを検証する、2)褐色脂肪や全身の代謝不全の評価:心不全時に不全状態に陥った褐色脂肪組織の代謝産物を測定し、血液中にリークし、心臓をはじめとする遠隔臓器の恒常性破綻が生じるかメタボローム解析等で検証する、3)褐色脂肪不全-心不全連関の解明:メタボローム解析に加え、マイクロアレー解析(外注予定)や必要に応じてプロテオーム解析などを行い、褐色脂肪不全の抑制が心不全を改善する詳細な分子機序を検証する。4)遺伝子改変マウスの解析:標的分子を絞り込み、遺伝子改変マウスの作成と表現型解析を行う。 2:肥満モデルにおける「褐色アディポカイン」の病態生理学的意義の検証 1)マウスモデルの解析;Pcolceを発現するアデノウイルスを褐色脂肪組織に投与、もしくはcDNAを骨格筋に投与するなどでgain of functionモデルを作成し、肥満時に生じる肝臓の炎症や線維化が増悪するか検証する。Pcolceに対する中和抗体を肥満モデルに投与し、Pcolce loss of functionモデルを作成し表現型を解析する。2)in vitro実験;In silicoの解析にてPcolceが肝臓に主に存在するFactorXと結合する可能性が示唆されているが、実際に肝臓のFactorXとPcolceが結合するか免疫染色法等にて確認する。また、上記仮説を検証するためにHepG2等の肝細胞ラインや初代培養肝細胞を用いたin vitroの実験を行う。これらの実験により、肥満や心不全における褐色脂肪不全の病的意義が明らかになる可能性が高い。
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