研究課題/領域番号 |
26893092
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
伊東 久勝 富山大学, 大学病院, 助教 (60736388)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 痛み / 睡眠 / 脳波 / 行動実験 / 神経科学 |
研究実績の概要 |
神経障害痛モデルにおける熱痛覚過敏反応を評価するために、坐骨神経結紮によって神経障害痛モデルを作製し、手術後1,2,4週間後に赤外線熱刺激を用いて熱痛覚過敏反応の評価を行った。その結果、神経障害痛モデル群は偽手術群と比較して、手術後1週間から4週間にわたって熱刺激に対する逃避潜時の著明な短縮を認めた。
アミトリプチリン投与による熱痛覚過敏反応の変化を評価するために、同様の方法で神経障害痛モデルを作製し、神経結紮手術前、アミトリプチリン投与前(術後7日目)、アミトリプチリン投与1持間後(術後8日後)にそれぞれ赤外線熱刺激を用いて熱痛覚過敏反応の評価を行った。その結果、坐骨神経結紮処置により短縮した逃避潜時は、アミトリプチリン投与により有意な改善を認めた。
さらにアミトリプチリンが睡眠状態に与える影響を評価するめに、坐骨神経結紮手術後5日目に脳波測定用ヘッドマウントを装着し、術後7日目にコントロール(0.9%生理食塩水)、術後9日目に10mg/kgアミトリプチリンを、それぞれ一日2回(午前7時と午後7時)投与し、24時間の脳波測定を行った。その結果、術後7日目(コントロール投与日)において、神経障害痛モデル群は偽手術群と比較して覚醒時間の増加およびnon-REM睡眠時間の減少を認めた。さらに術後9日目(アミトリプチリン投与日)において、神経障害痛モデル群では覚醒時間の減少およびnon-REM睡眠時間の増加を認めた。一方で、偽手術群はアミトリプチリン投与による睡眠状態の有意な変化を認めなかった。さらに、non-REM睡眠期およびREM睡眠期における脳波スペクトル解析を行ったところ、アミトリプチリンの投与は、神経障害痛モデル群、偽手術群ともに脳波の周波数スペクトルに影響を与えなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は坐骨神経結紮による神経障害痛モデルの作製について十分な研修を受けており、今回の実験においても、滞りなくモデルを確立することができ、痛みの発現を確認するために施行した赤外線熱刺激による熱痛覚過敏反応についても、過去の研究と同様の結果が得られた。 臨床的知見から、三環系抗うつ薬を含めた抗うつ薬は、慢性的な痛みによる二次的な睡眠障害を改善する可能性が考えられている。このことから作製した神経障害痛モデルに三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンを投与し、脳波を詳細に検討したところ、睡眠の改善効果がある可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンは慢性的な神経障害痛による二次的な睡眠量の低下に対して、改善効果がを認めた。さらにコントロールと比較して、アミトリプチリンは睡眠中の脳波スペクトルに影響を与えなかった。これらの結果から、アミトリプチリンはより自然な睡眠改善効果が得られる可能性がある。 アミトリプチリンは多系統の生体活性をもっており、なかでもセトロニン2A受容体拮抗作用、セトロニン2C受容体拮抗作用、ムスカリン受容体拮抗作用、ヒスタミン受容体拮抗作用、アドレナリンα1受容体拮抗作用、Naチャネル阻害作用等が睡眠量の増加に寄与している可能性が考えられる。 今後、これらの個々の受容体への作用が神経障害痛による二次的な睡眠障害にどのような影響を与えるか、それぞれの特異的な受容体作動薬を用いて調査を行う。 また、従来のベンゾジアゼピン受容体を介する睡眠薬とは別の薬理作用を持つ新しい睡眠薬についても同様の実験を行い、慢性的な神経障害痛による二次的な睡眠障害に対する効果について調査を行う。 さらにこれらの治療薬がサーカディアンリズムの形成にどのような影響を与えるかについて、動物の神経サンプルを採取し、分子生物学的手法を用いて評価を行う。
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