研究課題/領域番号 |
26893103
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
三澤 由佳 信州大学, 医学部, 助教(受託研究) (10738644)
|
研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
|
キーワード | 発達障害 / 周産期脳障害 / 周産期ストレス / バイオマーカー / サイトカイン |
研究実績の概要 |
世界的に増加している発達障害の原因は未だ明らかではない。遺伝医学的な側面と胎児期および周産期の脳障害の両面が関与しているとされているが、脳障害に関する報告は少ない。周産期ストレスの有無と脳障害との関連、それらと発達障害のタイプとの関連を明らかにすることが、発達障害の原因と病態解明に重要であると考えた。微細脳障害のうち予防可能な周産期ストレスが明らかになり、周産期医療へのフィードバックと発達障害の発症の予防に寄与することができる。 本研究は既にエコチル調査の独自調査として計画され、信州大学医学部医倫理委員会の承認済みである。300名の検体は研究開始前に既に採取・保存済みであった。 1.検体保存済みの対象児からデータベース登録を開始した。 2.新規検体保存(232検体)を行い、臍帯血清を冷凍保存した。合計532検体を保存した。 3.保存された血清の一部で以下の項目をELISA法にて測定した。(1)神経軸索障害マーカーであるニューロフィラメント‐H型 (2)中枢神経系の炎症時に破綻するとされている血液脳関門の障害因子であるMMP9 (3)MMP9の阻害剤であるTIMP-1 4. 脳障害の原因としての炎症機転の関与の解析のため、免疫学的パラメーターとして血清中のサイトカイン(IL-2, IL-4, IL-6, TNF-alfa、IFN-gamma、IL-17A)を、磁気ビーズを用いたフローサイトメトリー法によって測定した。 5.上記をもとに周産期脳障害プロファイリングを完成させた。 6.1歳半になった児から順次発達評価を開始した。1歳半検診のデータの市町村からの取り寄せに関する説明書と同意書を対象児の保護者に送付し、同意の得られた対象児の検診データ(医師による診察所見、日本語版M-CHAT項目他)を取得した。また、保護者を対象にアンケート調査を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に計画していた、以下の項目はおおむね順調に終了したため。 1. 検体保存済みの対象児からデータベース登録を開始した。2. 並行して新規検体保存を行った。臍帯血清は、速やかに-80℃で冷凍保存した。残り232名の検体を同意のもと採取・保存し、合計532検体を保存した。3. 保存された血清の一部で以下の項目をELISA法にて測定した。(1)神経軸索障害マーカーであるニューロフィラメント‐H型 (2)中枢神経系の炎症時に破綻するとされている血液脳関門の障害因子であるMMP9 (3)MMP9の阻害剤であるTIMP-1 4. 脳障害の原因としての炎症機転の関与の解析のため、免疫学的パラメーターとして血清中のサイトカイン(IL-2, IL-4, IL-6, TNF-alfa、IFN-gamma、IL-17A)を、磁気ビーズを用いたフローサイトメトリー法によって測定した。5. 上記をもとに周産期脳障害プロファイリングを完成させた。6. 1歳半になった児から順次発達評価を開始した。1歳半検診のデータを市町村より取り寄せることに関し説明書と同意書を対象者の保護者に送付し、同意の得られた対象者の検診データ(医師による診察所見、日本語版M-CHAT項目)を取得した。また、保護者を対象にアンケート調査を行った。項目としては運動面(粗大、巧緻)、精神面、言語面に関する日常の行動について、医師からの発達障害の診断の有無などである。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画での平成27年度計画に沿って研究を進める。 1. 臨床的な周産期ストレスと脳波や画像検査所見、脳障害バイオマーカーや免疫学的パラメーターとの相関の最終的なデータ解析を行う。どの様な周産期イベントがどの様な脳障害をきたしうるのかが判明し、周産期医療に対するショートループでのフィードバックが可能となる。この時点で、短期的な結果を公表する。 2. 同時に、発達評価を進める。通常、脳性麻痺と重度精神遅滞例は12か月健診までに、重度の自閉症は1歳半健診までに明らかになる。本研究では、既に分娩時に検体保存された症例も用いるため、順次発達アウトカムを評価し、平成27年度までの観察期間中に中等度から重度の発達障害例および脳性麻痺と精神遅滞例について評価する。神経発達学的診察およびアンケート調査、M-CHATでいずれも正常範囲内と判定された児を定形発達児として対照群とする。 3. 残りの保存済みの血清で、バイオマーカーの測定をELISA法にて施行し、サイトカインの測定を磁気ビーズを用いたフローサイトメトリー法によって測定する。 4. 平成27年度中に以上の結果をまとめる。発達アウトカムと周産期プロファイリング結果を多変量解析し、関連因子を検討する。この際、交絡因子として母自身の発達障害の既往、基礎疾患および内服薬、不妊治療の有無、過去の出産・妊娠歴、喫煙・飲酒の有無、を挙げ検討する。このことにより様々な周産期ストレスが、どの程度の微細脳障害を起こしうるか、その結果どの様な発達障害を発症しうるかが明らかとなる。微細脳障害のうち予防可能な周産期ストレスを明らかにし、周産期医療へのフィードバックと発達障害の発症の予防につなげる方法を検討する。
|