研究課題/領域番号 |
26893109
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山口 淳平 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (00566987)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 膵癌抑制遺伝子 |
研究実績の概要 |
膵癌は難治性の悪性疾患であり、手術を含めた各種抗癌治療をもっても依然予後不要であるため、新たな治療法の開発が望まれる。癌の発生には各種細胞増殖・抑制因子が関与しており、これらが弁密に制御されているのはstem cell nicheである。Stem cell nicheにおけるこの制御機構が破綻することで癌が発生すると考えられる。我々は膵管上皮細胞のstem cell nicheと想定されるpancreatic duct gland (PDG)における細胞増殖機構を検討し、PDGにおいてTFF2 (Trefoil Family Factor 2)が豊富に産生されていることを突き止めた。TFF2は胃癌領域において腫瘍抑制因子として作用していることが示唆されており、膵癌においても癌抑制因子として作用する可能性がある。 遺伝子改変マウスを用いてTFF2欠損と膵特異的なKRAS変異を導入すると、生後2か月には膵前癌病変であるIPMN (Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms)が発生し、また生後6か月においては一部で膵頭部癌および多発肺・肝転移の発生が認められた。また膵癌細胞株であるPanc-1にplasmidを用いてTFF2を強制発現させると、そのBrdU取り込み率が有意に減少することが確認された。このTFF2強制発現に伴い癌抑制遺伝子であるSMAD4の発現上昇および活性化が確認され、一方SMAD4の発現を抑制した細胞においてはTFF2の増殖抑制効果が見られなくなることが確認され、TFF2の癌抑制効果はSMAD4を介したものであることが示唆された。これらの結果からTFF2は膵癌抑制遺伝子であり、TFF2による新たな膵癌治療方法の開発は有用であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新たなTFF2欠損マウスとしてEUCOMMよりTFF2 knockout-firstマウスのES細胞を導入した。このマウスではCre発現によりTFF2の欠損を組織特異的に制御することが可能であり、TFF2欠損による影響をより詳細に検討することが可能である。現在までにES細胞の遺伝子型を確認し、受精卵に移植してキメラマウスを作成中である。細胞の購入手続き、マウスの作成に時間を要するため若干計画は遅れ気味である。 TFF2強制発現による癌細胞増殖抑制を治療に応用する方法を検討するため、TFF2 recombinant proteinの膵癌細胞に対する影響を検討中である。しかしながら現在までに癌細胞増殖抑制効果は認められていない。これは強制発現による内因性TFF2とrecombinant proteinによる外因性TFF2の作用機序の相違が原因と考えられ、このため計画はやや遅れており、今後は癌抑制効果を持つ内因性TFF2の発現を促進する方法を検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
TFF2 knockout-firstモデルにおいては、キメラマウスを入手次第F1マウスの作成に移り、目標のTFF2欠損マウスの作成を目指す。これをKRAS変異マウスと交配することで完全な膵特異的KRAS変異・TFF2ノックアウトモデルを作成してその影響を検討する。またこのマウスに膵炎を導入することで更なる膵癌の発生率を検討し、新たな膵癌発生モデルマウスの確立を模索する。 TFF2発現を癌細胞に導入するため、indomethacinおよびPPARγリガンドであるpioglitazoneを用いる。これらの薬剤は胃上皮細胞におけるTFF2発現を誘導するとの報告があり、また腫瘍抑制効果があるとの報告もある。これらを膵癌細胞に投与してTFF2発現を誘導し、その効果とメカニズムを検証する。
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