研究課題/領域番号 |
26893117
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河野 健一 京都大学, ウイルス研究所, 助教 (70732874)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 可溶化剤 / M2プロトンチャネル / S31N変異体 / 溶液NMR / A型インフルエンザウイルス / アマンタジン耐性 / 二量体 |
研究実績の概要 |
(1)新規可溶化剤の合成およびバクテリオロドプシンを用いた物性評価 Cholyl-PCの合成および酵素ホスホリパーゼDを用いたCholyl-PC からCholyl-PAへの変換法を確立させてきた。条件検討の結果、収率(原料Lyso-PCに対するモル比率)を4%から12%に向上させることに成功した。新規可溶化剤の物性評価を行うため、これまでに幅広く研究されているバクテリオロドプシンの生合成および精製方法の確立を行った。可溶化能や熱安定性、時間耐久性、ミセルサイズなどを既存の可溶化剤と比較した結果、最も安定的かつ長時間(40℃で少なくとも1週間以上)にわたって膜タンパク質の構造を保持出来る事を明らかにした。また、膜タンパク質と可溶化剤の複合体の合計分子量が平均69 kDaと、溶液NMRに応用可能な最小サイズで可溶化できる事も分かった。 (2)無細胞合成系を用いた蛍光標識体M2タンパク質の合成 本研究は、A型インフルエンザウイルスM2プロトンチャネルの二量体の構造解析を溶液NMRで行う事を目指している。初めに、新規可溶化剤のミセル中におけるM2タンパク質の会合状態を確認するため、無細胞合成系で蛍光標識体M2タンパク質を合成し、蛍光相関分光法(FCS)測定で会合状態を算出する。ウェスタンブロットにより、無細胞合成キットでM2タンパク質の合成可能である事が確認されたが、単量体と二量体のバンドが検出された。これは、分子間でのジスルフィド架橋が部分的にしか起こっていない事に起因している。そこで、分子間でジスルフィド結合がより形成されやすいように、M2タンパク質のN末端に、強固な相互作用を示すcoiled-coil配列E3とK3をそれぞれ導入することにした。現在、蛍光標識したE3およびK3ペプチドを固相合成によって作製し、界面活性剤存在下でもE3-K3間の相互作用に影響が無いかどうかを調べている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
以前は、新規可溶化剤の物性評価に、ドライパウダー状で販売されているバクテリオロドプシンを使用していたが、先行研究で、凍結乾燥させたバクテリオロドプシンが本来の構造と異なる可能性が示唆されていた。そのため、native状態のバクテリオロドプシンで新規可溶化剤の物性評価を行うため、高度好塩菌を用いたバクテリオロドプシンの生合成および精製方法の確立に着手したが、予想以上に時間を要した。また、ドライパウダー状で販売されているバクテリオロドプシンとnative状態のバクテリオロドプシンでは、実験結果に食い違いが生じたため、全てのデータを取り直す必要があった。例えば、可溶化時間では前者では1時間で済むのに対して、後者は24時間必要であった。加えて、前者ではChplyl-PC / PA 混合時の方が構造を安定的に保たれたのに対して、後者ではCholyl-PA混合により、顕著な変性が観られた。ただ、Cholyl-PC単体でバクテリオロドプシンの構造を40℃で1週間以上、安定に保持できることを新たな発見した。ドライパウダー状で販売されているバクテリオロドプシンはnative状態と性質的に大きく異なる可能性が考えられる。本研究では、高度好塩菌から採取したnative状態のバクテリオロドプシンで得られた結果を基に、新規可溶化剤の評価を行って行く予定である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)無細胞合成系を用いた蛍光標識体S31N タンパク質の合成と、FCS を用いた会合状態の算出 界面活性剤存在下で、E3-K3ペプチド間の相互作用に影響がないことを確認した後、E3およびK3配列をN末端に組み込んだM2タンパク質の合成を行い、分子間のジスルフィド結合の形成度合をウエスタンブロットで確認する。バックアップ案として、ホモダイマー形成すると報告されているGCN4配列を採用することも考えている。目的タンパク質の合成と精製が終了すれば、FCSを用いて会合数を算出する。単量体のスタンダード膜タンパク質として既に確認が取れているグライコフォリンA 変異体(GpA*)を用いる。単量体GpA*に比べてM2タンパク質から2 倍の輝度が得られれば、二量体のチャネルを形成していると判断できる。また、拡散時間から複合体の合計サイズを見積もり、溶液NMR で測定可能な分子量の範囲内(80 kDa以内)に収まっていることを確認する。 (2)溶液NMR 測定と分子動力学シミュレーション 高分解能溶液NMR(650 および950 MHz)による縦緩和、横緩和時間、DOSY 測定から複合体の大きさを見積もる。HSQC スペクトル測定を行い、S31N 変異体の二次構造解析を行う。構造解析の可能な最適条件が見つかれば、13C-グルコースおよびD2O も用いて標識を行い、ピークの帰属と立体構造解析を行う。同様の実験を野生型M2 タンパク質でも行う。野生型と変異体の二量体構造を比較し、S31N 変異体が定常的に二量体を形成する原因を究明する。また、Am とS31N 変異体の相互作用を解析し、結合の有無や結合部位の特定を行う事で、S31N 変異体のAm 耐性メカニズムを解明する。シミュレーションの計算結果と溶液NMR測定結果を照らし合わせて、S31N変異体M2 チャネルのプロトン透過経路を総合的な観点から推定する。
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