研究課題/領域番号 |
26893128
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中嶋 千紗 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50733573)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 皮膚 / 免疫 / 掻痒 |
研究実績の概要 |
掻痒は生活の質(quality of life, QOL)を低下させる症状の一つである。特に難治性の掻痒はQOLを著しく低下させ、既存の治療では効果が不十分な事から新規治療法の開発は緊要の課題である。掻痒を伴う皮膚疾患では、好酸球や好塩基球の著明な細胞浸潤が観察されるが、現在まで免疫担当細胞と末梢神経の関係性については明らかになっていなかった。そこで申請者は、皮膚掻痒時の末梢神経の動態と好酸球や好塩基球を始めとする免疫担当細胞との関係性に着目し、遺伝子改変マウス及び二光子顕微鏡を用いる事で生理的に近い条件での解析を行い、皮膚掻痒の病態解明を目指すこととした。 まずはマウス・ヒトサンプルを用い定常状態の神経線維の分布等の評価を行った。これまで神経線維の評価は免疫組織染色を用いることが多かった。しかし、通常の組織染色ではメラニン等の色素の影響で表皮から真皮を含めた広範囲にわたる神経の観察は難しかった。そこで、当研究室では透明化の手法を用い検討した。透明化を用いた検討ではマウス、ヒトともにPGP9.5抗体を用いた末梢神経の染色に成功している。 さらに、マウスを用い乾皮症モデル・テープストリッピング、アトピー性皮膚炎モデル等を施行しサンプルを回収し、透明化した後に二光子励起顕微鏡を用いて観察を行った。アトピー性皮膚炎モデルにおいては、定常状態と比較し末梢神経伸長を認め、広範囲かつ三次元的に解析可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画当初、末梢神経に特異的に蛍光を有するThy1-YFPマウスを用いて、さまざまな状況における末梢神経の分布等を観察予定としていた。しかし、今のところ原因は究明されていないが定常状態では十分に神経線維を観察できるものの、炎症状態では神経線維を十分に同定できず、実験進捗状況に遅れをきたしていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
掻痒時の免疫担当細胞の動態、機能評価のために、好酸球欠損ウスもしくは好塩基球特異的除去マウスなどの各種免疫担当細胞欠損マウスを使用し、起痒物質投与時や当研究室でこれまで実施してきた乾皮症モデル、アトピー性皮膚炎モデル、尋常性乾癬モデルなどを施行し、末梢神経の動態を免疫組織学的、および二光子励起顕微鏡を用いてin vivoで観察する。免疫担当細胞欠損マウスだけでなく、近年掻痒に関連する事が新たに報告されたTymic stromal lymphopoietin (TSLP) ノックアウトマウス等や病態に関与するサイトカインノックアウトマウスなども用いて、さまざまな状態における末梢神経の動態評価を行う。 また、ヒト皮膚疾患での評価のために実際のアトピー性皮膚炎患者や痒疹、水疱性類天疱瘡、皮膚T細胞リンパ腫など強い掻痒を伴う疾患患者の皮膚サンプルや血液サンプルにて確認することにより、病態の詳細な解明と新規治療の開発に向けた応用基盤を形成する。 具体的には皮膚標本は、神経線維や浸潤細胞の免疫組織学的染色、表皮と真皮に分離した後、定量性PCRによるサイトカイン・ケモカイン発現を解析する。 血液解析は、フローサイトメーターを用いた血球の表面マーカーの解析や細胞内サイトカインの解析、血清に関しては血清中のサイトカイン・ケモカイン濃度(特にTSLPやIL-31など新規起痒物質を中心に)ELISAにて測定していく予定である。申請者は既に、好塩基球の新規活性化マーカーであるIL-33受容体が、強い掻痒を伴う皮膚T細胞リンパ腫患者の末梢血において発現上昇していることを見出している(未発表データ)。同様にCD63, CD69,もしくはCD203cといった好塩基球の活性化マーカーに関して各疾患で発現を確認し、かゆみもしくはTSLPやIL-31などの起痒物質との相関関係を検討する。
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