研究課題/領域番号 |
26893137
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
難波 倫子 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (30734420)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | オートファジー / 糸球体内皮細胞 / 酸化ストレス / ミトコンドリア / 糸球体硬化 |
研究実績の概要 |
Tie2-CreマウスとAtg5floxマウスを交配することにより血管内皮細胞特異的オートファジー不全マウス(KOマウス)を樹立した。Tie2は骨髄にも発現するためKOマウスは骨髄不全により9週齢で死亡し長期観察が困難であること、また糸球体の変化が血球系細胞のオートファジー不全に起因する可能性を除外するために野生型マウスの骨髄移植を行い、長期生存が可能なマウスを作成した。骨髄移植後1年齢のKOマウスを用いて全身の血管の評価を行ったところ、腎糸球体に最も顕著な表現型を認めた。予備実験において9週齢マウスの糸球体で観察されたような係蹄の閉塞、基質の増生、係蹄基底膜の二重化に加えて、糸球体硬化やメサンギウム融解といった高度な糸球体傷害像が得られた。また免疫染色において内皮細胞傷害時に発現するICAM-1の増生や内皮細胞のグリコカリックスの減少を観察し、糸球体内皮細胞傷害が示された。野生型マウスに骨髄移植を施行した場合や野生型マウスにKOマウスの骨髄を移植した場合では内皮細胞傷害の所見を認めず、KOマウスの表現型が血管内皮細胞のオートファジー不全に起因するものと考えられた。糸球体内皮細胞傷害の原因として、酸化ストレスマーカーを用いて1年齢のマウスの腎糸球体の染色を行ったところ、予備実験で示したペントシジンに加えて、ジチロシンの染色がKOマウスで増強していることを確認した。また、免疫染色によりポドサイトやメサンギウム細胞にも傷害が生じている可能性も示唆された。現在、糸球体内皮細胞の単離を試みており、オートファジー不全の内皮細胞ではミトファジーが欠損しているためミトコンドリアの恒常性が維持できずミトコンドリア由来の活性酸素が内皮傷害の原因となっている事、さらに糸球体内皮細胞傷害が原因となって糸球体の構成細胞であるポドサイトやメサンギウム細胞傷害が生じることを明らかとする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現時点の達成度として、当初の計画よりやや遅れていると考える。その理由として、一つ目に血管内皮細胞特異的オートファジー不全マウス(KOマウス)の樹立には、Tie2-CreマウスとAtg5floxマウスの2系統を交配する必要があり、KOマウスは著明な骨髄不全のため早期に死亡し妊孕性もないため、効率の良いKOマウスの作成が困難であることが挙げられる。二つ目として、長期的な観察のために骨髄移植を行う必要があったが、KOマウスは野生型マウスに比べて1年生存率が著明に低く(20% vs.80%)、検討に十分なKOマウスを得ることが困難であったことが挙げられる。また、前年度に予定していた糸球体内皮細胞を用いた検討も途中の段階である。本研究は糸球体内皮細胞の解析に焦点を置いているが、糸球体内皮細胞の単離には確立した方法がなく、KOマウスの作成が遅れていることもあり今後十分な検討を加えていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
In vitro実験系の構築については、研究計画書に記載の通りマグネットビーズを用いた単離糸球体の精製を行い、単離した糸球体から内皮細胞特異的表面抗原マーカーを利用した糸球体内皮細胞の単離を進めていく予定である。単離した糸球体内皮細胞を用いて、一酸化窒素やPDGFB、SDF-1、von Willebrand factorなど内皮細胞から分泌される因子の評価や蛍光インジケーターを用いた活性酸素の測定、ミトコンドリア機能の評価など多方面からの糸球体内皮細胞のホメオスタシス維持の解析を試みる。 また、オートファジーによる糸球体内皮細胞のホメオスタシス維持機構と疾患との関わりについて、in vivoで糖尿病モデルの作成や抗酸化剤の投与などを行っていく予定であるが、Tie2-Creマウスを用いた血管内皮細胞特異的オートファジー不全マウスでは骨髄不全の問題により計画の進行が困難であると判断される場合、他の内皮細胞特異的Cre(例えば、VE-cadherin-CreやPdgfb-iCreなど)を用いて、これらの実験を進めていくことを検討する。
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