研究課題
糖尿病網膜症や加齢黄斑変性症などの眼疾患や悪性腫瘍は中途失明や生命に関わる重篤な疾患であり、その発症および進行には虚血および病的血管新生が密接に関連することが知られている。本研究では、既存血管に存在して血管新生に中心的な役割を果たす特殊な血管内皮細胞を同定し、血管新生との関連を解明することにより血管新生を制御する新規治療法の開発を目指すことを目的としている。我々は、FACSおよび蛍光標識モノクローナル抗体を用いた精度の高い血管内皮細胞単離法を確立し、さらにDNA結合性色素Hoechstを用いたSide population(SP)法を行い、血管新生の際に中心的な役割を果たす潜在的増殖活性の高い血管内皮細胞として血管内皮SP細胞を同定してきた。(EMBO J 2013, IOVS 2013)。血管内皮SP細胞は既存血管中の血管内皮細胞の約1~3%で存在し、低酸素刺激でその割合および増殖活性が増加し機能的血管を構築することがわかった。さらに、平成26年度の研究では、DNAマイクロアレイを用いてマウス生体より回収した血管内皮SP細胞および血管内皮MP細胞(SP細胞以外の大部分)の遺伝子発現プロファイルを網羅的に3回にわたって解析した。その結果、血管内皮SP細胞とMP細胞はともに血管内皮細胞マーカーであるVEカドヘリンやCD31を高発現していたが、遺伝子プロファイルが全体として著しく異なることが判明した。これらの遺伝子群のなかで血管内皮SP細胞で特異的に発現する遺伝子群を絞り込み、最終的に血管内皮SP細胞で最も特異的に発現する分子を同定することができた。さらにこの特異的な分子陽性の血管内皮細胞をFACSを用いて単離することができた。また、特異的な分子陽性の血管内皮細胞が、Vitro上で潜在的増殖活性を示す特殊な血管内皮細胞であることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
血管内皮SP細胞に特異的に発現する遺伝子群のマイクロアレイ解析を計画通り行い、候補遺伝子を絞り込み、最終的に特異的な遺伝子を同定した。モノクローナル抗体を作製しFACSにおいてCD31陽性CD45陰性の血管内皮細胞分画に特異的分子陽性の分画が存在することを確認し、その分画を培養することにより、潜在的増殖活性を有する血管内皮細胞が存在することを証明した。
今後、血管内皮SP細胞が生体内で実際に存在し、血管新生に貢献するかにつき検証する。マウス生体内で、特異的な遺伝子を発現する血管内皮細胞のみを蛍光タンパク質で標識する。方法として、Inducible Cre/loxPシステムを用いた細胞系譜解析(genetic lineage tracing)を行う。マイクロアレイにより同定した特異的遺伝子座位にCreを発現したマウスを作製し、このマウスと2つのloxP配列を有しEGFPをCre切断依存的に発現するレポーターマウスを交配する。Creを発現したマウスは、変異型Estrogen受容体融合蛋白(CreERT2)によりタモキシフェン誘導性にCre recombinase活性を導くことができるようにすることで、in vivoにおいて血管内皮SP細胞特異的分子をEGFPで標識することが可能となる。タモキシフェン投与によりEGFPで標識された血管内皮細胞が生体内で実際に存在するか、存在した場合生体内の血管のどのような部位にどのような細胞と隣接して存在するかなどにつき詳細に検討する。さらに網膜や脈絡膜血管新生における血管内SP細胞の役割についても検討を行う。
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Prostate Cancer Prostatic Dis
巻: 18 ページ: 56-62
10.1038/pcan.2014.46. Epub 2014 Nov 18.