研究課題/領域番号 |
26893145
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森 健太 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 特任研究員 (40733027)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 歯肉上皮 / TLR3 / TLR2 |
研究実績の概要 |
歯周炎は、歯周病原性細菌を含むバイオフィルムが原因となり発症し、歯周組織の破壊に至る慢性炎症性疾患で、バイオフィルムにより惹起される過剰な免疫応答・炎症反応が歯周組織の破壊に関与すると考えられている。一方、上皮細胞は外界との物理的バリアとして外来異物の侵入を防ぐ役割を果たしているのみならず、炎症性サイトカイン・ケモカインを分泌し免疫応答の制御に関与していることが明らかとなっている。 我々は、これまでに歯肉上皮細胞がTLR3を介して自己由来の壊死細胞から放出される内因性起炎因子を認識し、TLR2の発現を上昇させることを明らかとした。そこでTLR3刺激後の歯肉上皮細胞におけるサイトカイン産生の変化を検討するため、当研究室において樹立したヒト歯肉上皮細胞(epi 4)にTLR3のアゴニストであるPoly(I:C)を刺激し上皮細胞から産生されるサイトカインの変化について検討を行った。その結果Poly(I:C)刺激24時間後においてβdefensinおよびMCP-1(Monocyte Chemotactic Protein-1)の産生量は増加したがIL-33の産生量は認められなかった。また、歯肉上皮細胞におけるTLR3刺激後の細胞膜タンパク質の発現変化についても検討を行った。その結果、TLR3刺激48時間後のepi 4においてMHCクラスⅠのタンパク発現は上昇したがMHCクラスⅡのタンパク発現には変化は認められなかった。また、TLR3刺激24時間後のepi 4においてB7-H1、B7-H3およびB7-DCのmRNA発現は上昇したが、B7-1、B7-2およびB7-H2のmRNA発現に変化はなかった。以上の結果より歯肉上皮細胞はTLR3の刺激を受けることによってサイトカインを産生し、細胞膜タンパク質の発現を変化させ免疫応答に関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究から、歯肉上皮細胞においてTLR3刺激後βdefensinおよびMCP-1の産生が上昇すること、および抑制性の共刺激分子であるB7-H1、B7-H3およびB7-DCのmRNA発現が上昇し免疫応答に促進的に作用するといわれている共刺激分子であるB7-1、B7-2およびB7-H2のmRNA発現に変化がなかったことが明らかとなった。これらのことから歯肉上皮細胞はサイトカインの産生を行うことで炎症を惹起する一方で抑制性の共刺激分子等の発現を増加させることで過度な炎症を抑制する可能性が示唆された。当初平成26年度の実験計画に予定していた歯肉上皮細胞におけるTLR3刺激後の炎症性サイトカイン・ケモカインの変化の検討および細胞膜タンパク質の変化の検討についておおむね実行でき順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1) 歯肉上皮細胞におけるTLR2発現と関連する細胞内シグナルの解析 歯肉上皮細胞においてTLR3刺激後IL-6、IL-8の他にIFNの産生が認められ、また歯肉上皮細胞において刺激後TLR2の発現が上昇するとの知見を予備的実験で得ている。このことからTLR3刺激によりTLR2発現が上昇するメカニズムの一つとしてIFNが関与しているのではないかと考えている。IFNはInterferon receptor1(IFNAR1)/IFNAR2により認識されJAK-STAT経路を活性化させることが知られおり、本研究ではIFN刺激によるTLR2発現の上昇メカニズムを、IFN刺激後のJAK-STAT経路を始めとする細胞内シグナルの変化をウエスタンブロティング法を用いて検討する。また、IFNの他にもTLR2発現誘導因子として有力な候補因子を見出し、細胞内シグナル変化を検討する。 2) 歯周病病変部におけるTLR2発現誘導因子の存在の解析 歯周炎病変部におけるIFNの存在に関してこれまで検討されていないため、歯周炎の重症度との相関性は現在のところ不明である。本研究では、私達がTLR2発現誘導因子の1つとして着目しているIFNを歯肉溝滲出液より検出し歯周炎の診断や疾患活動度を診断するマーカーとなりうるかを検討する。歯周炎罹患患者の歯肉溝より、ペーパーポイントを用いて歯肉溝滲出液を採取し、リン酸緩衝生理食塩水にて懸濁し、その懸濁液中に含まれるIFN量をELISA法あるいはウエスタンブロティング法を用いて測定する。以上の結果から歯周炎の重症度と歯肉溝滲出液中のIFN量の相関性を検討する。また、他のTLR2発現誘導因子も明らかになれば併せて検討する。本研究では大阪大学大学院歯学研究科倫理委員会の審査を経ることを厳守する。
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