上皮細胞は外界との物理的バリアとして外来異物の侵入を防ぐ役割を果たしているのみならず、病原体関連分子パターン(Pathogen-Associated Molecular Patterns)を認識することにより炎症性サイトカイン、ケモカインを分泌したりalarminと総称される細胞損傷に関連した分子群を放出することで免疫応答の制御に関与していることが明らかとなっている。歯肉上皮細胞においても歯周病原性細菌の生菌や菌体構成成分による刺激を感知し、様々な炎症性サイトカインを産生することが報告されている。また、生体内において感染やストレス等による組織の壊死に伴い大量の細胞死が生じると、その細胞によりダメージ関連分子パターン(Damage-Associated Molecular Patterns:以下DAMPsと略す)が放出され、これらが周囲の細胞内外の受容体に認識され炎症反応を惹起すると考えられている。 High Mobility Group Box 1 protein、Biglycan、Versican、mRNA、Small nuclear RNAなどがDAMPsとして知られており、壊死細胞よりこれらの分子が放出され、炎症を引き起こす。そしてDAMPsを認識するレセプターとしてP2X Receptors、Receptor for advanced glycation end products、Toll like receptor(以下TLRと略す)などが知られている。本研究では歯肉上皮細胞がTLR3を介して自己由来の壊死細胞から放出される内因性起炎因子を認識し、TLR2の発現を上昇させるメカニズムに関して検討を行った。その結果、TLR3刺激後に歯肉上皮細胞より産生されるIFN-betaがTLR2発現上昇に関与している可能性が示された。また、TLR3刺激により上皮細胞のタイトジャンクションを形成する分子群の発現減少により、上皮細胞層のバリアー機能が弱まり、外界刺激の宿主体内への侵入を容易にする可能性も示唆された。
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