正常組織、特に消化管上皮や血液系は、幹細胞という少数の未分化な細胞が、成熟細胞に分化し続けることで恒常性が保たれている。近年、癌組織においても幹細胞様の細胞集団が存在し、癌組織を形成・維持していることが示されており、正常組織と癌組織における幹細胞の観点からの比較に基づいた研究がますます重要となってきている。癌幹細胞および正常組織幹細胞の解析を目的とし、マウスの正常脂肪由来幹細胞 (mADSC)に関して、8種類の表面抗原、13種類の細胞内リン酸化タンパク、および細胞内アルデヒド脱水素酵素活性 (ALDH)に基づいて、bulk細胞中の性状の異なった集団の同定を試みた。その結果、mADSC中に、ALDH活性の高い15%程度の細胞集団を同定した。ALDHはレチノイン酸代謝に関与し、分化能における関与が考えられたことから、ALDH活性の高い集団と低い集団をそれぞれ軟骨、脂肪、骨分化をそれぞれ誘導し、コラーゲンⅡ、FABP3、オステポンチンに対する免疫染色を行って検討したところ、ALDH活性の高い細胞集団においては、高い骨分化能示すことが判明した。また、WST-8アッセイを用いて、それぞれの集団の細胞増殖率を検討したところ、ALDH活性の高い集団がより高い増殖活性をもつことが判明した。現在、これらの細胞集団に関してマイクロアレイおよびgene set enrichment analysisを用いて遺伝子発現の観点から解析中であるほか、癌細胞に関しても性状の異なった細胞集団の有無について検討中である。
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