本研究課題の目的は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)を応用し、腫瘍環境下の体腔に投与されたナノキャリアおよび核酸/ナノキャリア複合体の体内動態を解析することで、当該疾患治療のための体腔内投与の有用性を支持する学術的根拠を示すことである。 平成26年度では、MSTO-211Hヒト胸膜中皮腫細胞をマウス胸腔内に移植することで作成した胸膜中皮腫モデルマウスにおいて、カチオン性リポソーム(CL)および核酸搭載CL(リポプレックス;Lpx)が胸腔内投与後に長時間胸腔内に滞留することを見出した。そこで平成27年度においては、抗がん剤封入CLおよびLpx胸腔内投与による胸膜中皮腫治療効果を評価した。抗がん剤として当該疾患に対する標準治療にも用いられるペメトレキセド(PMX)を選択し、脂質組成の異なる2種類のCLを用いてPMX封入CL(PMX/Non-Chol CL、PMX/Chol CL)を調製した。各PMX封入CLの胸腔内投与による治療評価を行ったところ、PMX放出性の高いPMX/Non-Chol CLでは高い抗腫瘍効果が認められたのに対し、遊離型PMXおよびPMX放出性の低いPMX/Chol CLではそれがほとんど見られなかった。また興味深いことに、PMX/Non-Chol CL投与群の腫瘍内PMX量はPMX/Chol CL投与群の4分の1程度であり、PMX胸腔内投与による当該疾患治療のためにPMXを効率的に暴露させる放出制御型DDSキャリアの利用が重要であることが示された。 次に、Lpx胸腔内投与による治療評価のため、腫瘍の成長に深く関与するチミジル酸合成酵素(TS)の発現を特異的に抑制するshRNAとカチオン性リポソームとの複合体(TS Lpx)を調製した。これを胸膜中皮腫モデルマウスに胸腔内投与したところ高い抗腫瘍効果が認められ、PMXとの併用投与で更に顕著な腫瘍増殖抑制およびマウス延命効果が認められた。以上より、TS Lpxの胸腔内投与は胸腔内長期滞留に起因する高い抗腫瘍効果を発揮することを明らかとした。
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