ファルネシル化が生体内において様々な役割を担っていることが明らかにされているが、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬であるtipifarnibは抗癌剤として臨床試験を試みられている一方で、スタチンとともにマウス敗血症モデルで保護作用を有することが報告されている。本研究の結果は、激しい炎症反応を肝臓に限局して生じる急性肝不全・劇症肝炎に対してtipifarnibが肝保護作用を発揮することを示すものである。現段階までの結果を報告する。 野生型マウスに対して、GalN/LPSを投与した急性肝不全モデルを作成した(GalN/LPS群)。一方でGalN/LPS投与一時間後にファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬であるtipifarnibを投与した治療群((GalN/LPS)+ Tipi群)を作成し、GalN/LPS群と以下の比較を行った。①血液生化学検査(肝逸脱酵素測定)、②肝臓の組織学的評価(浮腫、炎症細胞浸潤、壊死細胞)、③炎症性サイトカインの発現(定量的PCR、ELISA)、④炎症性、抗アポトーシス蛋白、転写酵素、転写因子蛋白の定量(ELIZA、Western blot)⑤活性型Caspaseの検出(Western blot、Caspase活性測定)、⑥ファルネシル化蛋白定量、⑦生存率。結果はtipifarnibが著効し、GalN/LPSによって引き起こされるアポトーシス、炎症反応を抑え、生存率を改善させた。さらに肝臓組織での免疫染色によりファルネシル蛋白の発現が抑えられたのを確認した。 現段階ではその作用メカニズムを生体および分子レベルまでの解明までは至っていない。今後の課題である。しかしながら肝不全にファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬が著効したことは臨床的にも意義があると思われる。
|