研究課題/領域番号 |
26893199
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
井 隆司 長崎大学, 病院(歯学系), 医員 (30733448)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 放射線性唾液腺委縮症 / 血管内皮前駆細胞 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、頭頸部癌の化学放射線療法に併発する唾液腺萎縮症を対象に、末梢血から効率的に抽出・濃縮した血管内皮前駆細胞(EPCs)と抗炎症性細胞による細胞治療を展開することで、萎縮腺組織の再生を図る治療技術を開発することである。 初年度に実施した本研究の成果は、末梢血由来血管内皮前駆細胞(EPC群)投与により、放射線性唾液腺委縮症の軽減化をマウスを用いた動物実験で認めたことである。具体的には、マウスの頭頸部に対する放射線照射により、放射線照射後から4週、8週、12週にそれぞれ唾液流出量の低下を認めるが、EPC群投与群ではいずれの時期においても、唾液流出量が障害モデルと比較して維持されていた。これまでに間葉系幹細胞や骨髄由来細胞の細胞投与による治療効果が報告されているが、これらの細胞治療の効果と比較して、一度の細胞投与で放射線照射後12週までもその治療効果が認められていることは特筆すべき結果である。 またHE染色による組織染色による比較を行った。照射後12週の組織像において障害モデル群では、唾液腺組織内に多くの炎症性細胞や線維化組織を認めた。これに比較して、細胞投与群の唾液腺組織には炎症性細胞や線維化組織は少なかった。 唾液腺組織の腺房細胞の比較においては、照射後4週では障害モデル群、細胞投与群ともに腺房細胞の減少は認めなかったが、照射後12週では、障害モデル群では細胞移植群と比較して有意に唾液腺腺房細胞の減少を認めた。また唾液腺組織内の幹細胞マーカーであるSca-1、c-Kit陽性細胞数の比較では、照射後12週において細胞移植群は障害モデル群と比較して有意に増加を認め、導管部分にその陽性細胞が観察された。血管新生をvWF抗体で染色し比較したが、照射後12週で細胞移植群は障害モデル群のみならず、放射線照射がされていないコントロール群と比較しても有意に増加していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
頭頸部への放射線照射による組織障害モデルの作出と、濃縮末梢血EPC 細胞群の抽出・増幅の条件を確立させ、その後に細胞治療を開始し、その治療効果の有無を評価することが本研究の初年度の目標であった。 初年度に動物実験において障害モデルの確立と、末梢血由来血管内皮前駆細胞(EPC群)の抽出・増幅条件を確立させた。また細胞移植の治療効果の評価の結果、われわれは末梢血由来血管内皮前駆細胞(EPCs群)の細胞治療効果を確認できた。その細胞治療効果は唾液流出量、HE染色はじめとする唾液腺組織染色(Sca-1,c-Kit,vWF)などで評価し、確認できている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に行なった移植試料について、さらに詳細な検討を加え、投与した細胞群の動態解析を行ない、濃縮末梢血EPC細胞群の投与効果のメカニズムを解析する。さらに、ヒトから採取した細胞群について検討を開始して、臨床試験に向けた治療法の開発を開始する。 細胞治療効果のメカニズムの解析としてまず、ドナー由来Y染色体の検出を行う。顎下腺について、障害組織中に存在するドナー由来細胞を検出し、動態を解析する。ドナー由来のY染色体を検出するFISH法と蛍光免疫染色による多重染色を施す。これにより、移植細胞の障害組織での生着、および血管新生や分化転換などの挙動解析を行う。 次に、濃縮末梢血EPC細胞群の投与により、障害組織において抗炎症作用も認められることが予想されるため、組織中のサイトカイン量を測定し、その評価を行う。具体的には、各評価時期に採取された唾液腺組織に含まれる炎症に関わるサイトカイン量(IL-1、TGF-β等)を網羅的に検量しうるMILLIPLEX(Merck Millipore社)で測定し、評価する。同時に免疫細胞(マクロファージ、Tリンパ球等)の細胞数をFACSにて解析を行なう。 また、臨床試験に向けてヒト細胞での評価を行う。具体的には、唾液腺萎縮モデルをF344免疫不全ラットにて作出し、細胞群を投与する。ヒトの濃縮末梢血EPC細胞群も共同研究者である東海大学の浅原教授らにより、その抽出・増幅条件は既に確立されており、それを応用することが出来る。実験は、マウスで行なったのと同様に細胞を投与し、唾液分泌量の計測と組織学的解析により効果を評価していく。実際の臨床においては、障害予防よりも照射後13週程度の腺房細胞消失が顕著になる時期での細胞投与が現実的であるので、その時期への投与を中心に評価を進めていく。
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