研究課題/領域番号 |
26893218
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
大澤 正人 横浜市立大学, 医学研究科, 客員研究員 (60733433)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 腎障害 / レニン・アンジオテンシン系 / 尿細管 / アンジオテンシン受容体 / 腎臓 / 高血圧 |
研究実績の概要 |
(1) 腎障害モデル動物での腎ATRAPの発現調節の検討. 腎障害の進展には,コラーゲンを含む細胞外基質の沈着による間質の線維化が大きく関与することが知られており,腎局所において亢進しているRA系は間質の線維化において重要な役割を果たしている.本検討では,腎障害モデル動物である片側尿管結紮マウス(腎線維化モデル)や5/6腎臓摘出マウス(慢性腎不全モデル)において,糸球体硬化,マクロファージ浸潤および間質の線維化などの進展に伴う,腎でのATRAPおよびAT1受容体の発現調節を検討した.まず野生型マウスに対し片側尿管結紮術ないしSham手術を施行し, 腎臓におけるRASコンポーネント,炎症性サイトカイン及び線維化関連因子の発現量をqRT-PCR法で評価し,Masson染色で組織の線維化を定量比較した.その結果, 片側尿管結紮マウスの腎臓では,Sham手術マウスと比較して腎組織の線維化及び線維化関連遺伝子の発現が有意に亢進していた.一方,片側尿管結紮マウスの腎臓におけるATRAPのmRNA発現量はSham手術マウスと比較して有意に減少し腎線維化の進展においてATRAPの発現低下が関与している可能性が示唆された.また5/6腎臓摘出マウスにおいてもATRAP発現量およびATRAP/AT1受容体の発現量の相対比が変化することを明らかにした. (2) 発生工学的手法を用いた臓器特異的ATRAP 欠損マウスの作成. 遺伝子組み替え用 ATRAP-loxP ベクターを作成し、ES細胞を用いてATRAP-loxpマウスを作成した。胎生致死や外見上の明らかな奇形は認めず、繁殖に関しても問題はなかった。その後Cre-loxPシステムを用いて,近位尿細管特異的ATRAP欠損マウスの作成を行った.今後はATRAP-loxpマウスおよび近位尿細管特異的ATRAP欠損マウスについて、臓器の先天奇形の有無や腎機能や血圧といったパラメーターについて野生型マウスと比較して差異があるかを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腎障害モデル動物での腎ATRAPの発現についてRT- PCR法により検討した結果、片側尿管結紮マウス(腎線維化モデル)と5/6腎臓摘出マウス(慢性腎不全モデル)ともに、ATRAP発現量およびATRAP/AT1受容体の発現量の相対比が変化することが見いだされた. 腎障害におけるATRAPの機能的意義を明らかにするために全身性ATRAP欠損マウスを用いて行っている研究についても予定通り進捗している。また今年度予定していたATRAP-loxpマウスの作成およびCre-loxPシステムを用いた近位尿細管特異的ATRAP欠損マウスの作成にも成功していることから、現在までの達成度としておおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
腎障害モデル動物での腎ATRAPの発現についてRT- PCR法により検討した結果、片側尿管結紮マウス(腎線維化モデル)と5/6腎臓摘出マウス(慢性腎不全モデル)とでは、腎障害の進行とともにATRAP発現量およびATRAP/AT1受容体の発現量の相対比がそれぞれ変化することが確認された.今後はATRAP発現量の変化が腎障害の進行に及ぼす影響および腎障害におけるATRAPの機能的意義を明らかにするために,全身性ATRAP欠損マウスに片側尿管結紮術または5/6腎臓摘出術を施行して腎障害を誘導し,野生型マウスに比べて高血圧および腎障害の発症・進展に違いが認められるかについて検討する.片側尿管結紮術施行後の組織学的検討として,Masson染色,Picro Sirius Red染色,コラーゲン免疫染色,フィブロネクチン免疫染色などにより間質の線維化を検討する.また,MCP-1などの炎症性サイトカインや線維化関連細胞外基質(TGF-beta,コラーゲンなど)遺伝子の発現について解析する.5/6腎臓摘出術施行後の検討として,腎機能,タンパク尿,糸球体障害,糸球体容積,および死亡率などを正常マウスと比較する予定である. またこれまでの予備的実験結果では,全身性ATRAP欠損マウスにおいては定常状態では血圧や腎機能に異常はみられないが,野生型マウスと比較して全身性ATRAP欠損マウスにおけるアンジオテンシンII刺激による高血圧および心・腎高血圧性臓器障害の増悪が認められ, その機序として腎遠位尿細管のナトリウム再吸収チャネル(ENaC)の過剰活性化が関与することが明らかとなっている.今回Cre-loxPシステムを用いて作成したATRAP-loxpマウスおよび近位尿細管特異的ATRAP欠損マウスについて、臓器の先天奇形の有無や腎機能や血圧といったパラメーターについて野生型マウスと比較して差異があるか等についても検討していく.
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