本研究は、形成外科手術時に回収される皮膚組織を解析サンプルとし、実際のヒトの肥満皮膚に生じる皮膚内部の解析を目的とした。A病院で残余皮膚組織が生じる腹直筋皮弁法にて乳房再建術を受けた日本人女性患者をリクルートし、非肥満群(BMI25以下)40名、肥満群(BMI25以上)11名を解析対象とした。平均年齢は非肥満群で50.2±7.4歳、肥満群で51.9±6.3歳であり、有意な差は認められなかった。平均BMIは非肥満群で22.3±1.7、肥満群で27.2±2.2であり、有意差が認められた。組織学的解析の結果、肥満群の皮膚は非肥満群と比較して表皮が肥厚しており、角化細胞の散在および増加が認められた。また、肥満群の表皮では増殖能を持ったMib-1陽性細胞が表皮の中層まで分布し増加していた。遺伝学的解析の結果、肥満群の皮膚では皮膚のコレステロール、脂肪酸の量が減少していることが明らかとなった。さらに、上記現象が生じるメカニズムとして、コレステロールおよび脂肪酸の合成律速酵素であるhmgcr、acc-1の発現がBMI22以上でBMIと負の相関を示すことが明らかとなった。一方で、BMI22以下では、BMIと脂質量に正の相関が認められた。これらの結果は、肥満は皮膚のバリア機能に必須の要素である皮膚内のコレステロールおよび脂肪酸を減少させること、BMI22付近が皮膚のバリア機能が最も維持された状態であることが示唆された。
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