本研究では、可視光増感複核錯体の創製とその有機合成化学への応用を目指した。可視光増感複核錯体の創製については、可視光増感ユニット、リレーユニット、反応部位との組み合わせを行なった。まず可視光増感ユニとには、可視光波長に吸収帯のあるルテニウムビピリジルを選択しビピリジル部位への置換基導入によりその電気的性質と吸収波長のチューニングを行った。結果的に可視光増感ユニットには、無置換のルテニウムビピリジルを有しリレーユニットには電子吸引基で置換されたビピリミジルを持つものが最も収率よく生成物を与えることが明らかとなった。すなわち、合成した触媒を用い鈴木-宮浦カップリング反応を行うと触媒回転数で70というこれまで報告された中でももっとも高活性な触媒であることが分かった。しかしながら、不活性結合の直接活性化反応への応用を目指し、合成した触媒を用い種々検討を行ったが、目的化合物はほとんど生成しなかった。これらの結果は、本研究で合成した可視光増感性錯体は、光エネルギーを化学エネルギーへと変換することは可能であることが示唆されたが、不活性結合の直接活性化へ用いるには、反応活性部位のより精密なチューニングが必要である。
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