研究課題
口腔ガン誘発疼痛のメカニズムを解明するために、口腔ガン細胞からの培養上澄み液をマウス鼻毛部に投与することによる疼痛モデルを開発した。マウスは50mLコニカルチューブから作成したチューブ内に保定され、von Frey毛および輻射熱刺激装置を用いて、機械刺激および熱刺激に対する逃避行動から疼痛を評価した。口腔がん上澄み液の投与により、機械逃避閾値並びに熱逃避潜時は低下し、機械・熱痛覚過敏が引き起こさることが確認された。いずれの疼痛もイオンチャネル型ATP受容体P2X2/3のアンタゴニストA-317491の共投与によりコントロールレベルまで抑制された。これは、口腔がん上澄み液による機械・熱痛覚過敏がP2X2/3の活性化により引き起こさることを示唆している。さらに、TRPA1受容体のアンタゴニストであるHC-030032の共投与により、機械痛覚過敏は有意に抑制されたが、熱痛覚過敏は抑制されなかった。さらに、口腔がん上澄み液の代わりに、P2X2/3のアゴニストであるαβメチルATPを投与したところ、同様に機械・熱痛覚過敏が引き起こされ、機械痛覚過敏はHC-030032の共投与により有意に抑制された。マウス単離三叉神経節ニューロンにおけるカルシウムイメージング法にて、口腔ガン細胞上澄み液およびαβメチルATP投与後のTRPA1アゴニストであるAITCによるカルシウム応答について検討した。AITC誘発カルシウム応答は口腔ガン細胞上澄み液およびαβメチルATP投与後において有意に促進し、この促進反応はA-317491存在下において抑制された。同様の実験を低張浸透圧刺激および侵害熱受容体TRPV1のアゴニストであるカプサイシンによるカルシウム応答は口腔ガン細胞上澄み液による促進反応を示さなかった。
3: やや遅れている
本研究の目的は、口腔ガン細胞から分泌されるATPが侵害受容ニューロンのTRPA1感作により機械痛覚過敏を引き起こすメカニズムを証明することにある。平成26年度までに行った実験結果より、口腔ガン上澄み液により誘発される機械痛覚過敏の発症にはATPによるP2X2/3活性化ととTRPA1感作が関与することが示唆された。in vivoでの行動実験結果とin vitroでの細胞実験結果は一致しており、結果の信頼性は高いと考えている。平成26年度の計画として、カルシウムイメージング法での各種細胞内情報伝達系に関する検討を行う予定であったが、十分な実験結果を得ることができなかった。過去の報告を参考に各種ブロッカーの濃度を設定して実験を行ったが、単独投与でカルシウム濃度の変動が起きたり、AITC誘発カルシウム応答には無反応という結果が得られたりして、実験条件の再検討が必要であることが分かった。
これまでの実験により、口腔ガン上澄み液により誘発される機械痛覚過敏の発症にはP2X2/3とTRPA1の2つのチャネルが関与することが示唆された。今後の実験としては、遅れているカルシウムイメージング法での各種細胞内情報伝達系に関する実験条件の再検討をおこない、P2X2/3活性化後にどのような細胞内メカニズムでTRPA1が活性化されるかを明らかにする。さらにパッチクランプ法を用いて、細胞内カルシウムシグナリングによるTRPA1の活性化経路についての検討も行う。また、マウス三叉神経節ニューロンニューロンにおいて、蛍光免疫染色法にて、P2X3とTRPA1が共存して発現していることを確認する。
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