研究課題
26年度は、ヘムオキシゲナーゼ(HO)ファミリー遺伝子HO-1, HO-2の表皮における発現様式の確認と、HO-1/HO-2ダブルコンディショナルノックアウトマウスの作成を主に行った。まず凍結切片を用いた免疫組織染色でHO-1の発現を確認した。HO-1はマウス全身の表皮および口蓋、食道、前胃などの角化重層上皮において、角層直下の細胞層に特異的に発現していた。またマウス耳介からディスパーゼ処理で表皮を剥離し、細胞接着分子・角化関連タンパクなど表皮分化マーカーとHO-1を共染色し共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、HO-1が表皮顆粒層の分化の進行に応じて発現誘導され、角化に伴いシグナルが消失する様子が確認された。また、各種表皮分化マーカーとHO-1の発現の間には明確な相関が認められ、角化の過程で各遺伝子の発現タイミングが厳密に規定されていることが示唆された。一方、HO-2は表皮の組織染色で明確なシグナルが認められず、cDNAを用いた定量PCRでもHO-1に比べると発現がわずかであることから、生理的状態の表皮ではHO-1がdominantに機能していると推測された。これと並行して、表皮基底層でCreリコンビナーゼを恒常的に発現するKeratin-5プロモーター-CreトランスジェニックマウスとHO-1/HO-2 遺伝子それぞれにloxp配列を導入したfloxマウスを交配し、表皮特異的HO-1/HO-2ダブルノックアウトマウスを得た。HO-1/HO-2遺伝子の発現の消失は免疫組織染色および定量PCRで確認済みである。現在、表現型の解析が進行中である。
2: おおむね順調に進展している
まず、交配による表皮特異的HO-1/HO-2ダブルノックアウトマウスの作成に成功した。各遺伝子の発現の消失は、免疫組織染色と、皮膚から表皮細胞のみを単離し定量PCRを行うことで確実にノックアウトされていることを確認した。現在マウスの表現型解析を行っている。また、表皮におけるHO-1の発現様式を検討するにあたり、本研究室で既に確立されている表皮シートのwhole-mountを用いた観察手法を用いることで多くの情報が得られた。一般に、表皮の組織構造はシート面に対し垂直方向の組織切片で観察される。一方、表皮シートのwhole-mountを共焦点レーザー顕微鏡で観察することで、表皮の三次元構造や角化過程をより詳細に把握できる。細胞接着分子や角化関連タンパクなど表皮分化マーカーとHO-1を共染色しwhole-mountで観察することで、これらマーカー分子とHO-1の発現の間に明確な相関が見られることが既に明らかとなっている。
まずHO-1/HO-2ダブルノックアウトマウスの表現型解析を行う。HO-1は角層直下の細胞に特異的に発現することから、角化に関連した機能を持つ可能性が想定される。テープストリッピング、経上皮水分蒸散量の測定などの手法を用いて、角層機能の異常の有無を検討する。また、HOは酸化ストレス制御因子であり、表皮にストレスを与えた際に表現型が増幅される可能性が考えられる。たとえば、紫外線照射やハプテン塗布による炎症の惹起を行い、ストレス反応性の変化について検討を行う予定である。紫外線照射装置や紫外線強度計など必要な装置は既に研究室に導入されている。また、HO-1は角層直下の特定の分化段階に限定的に発現しており、今後は、この発現様式がどのような現象を反映しているか検討を進める。たとえば基底膜側からアピカル側への移動に伴う細胞外環境の変化や酸素との接触が引き金となる可能性が考えられる。今後、各種遺伝子改変マウスや皮膚疾患モデルマウスでHO-1の発現を検討し、HO-1の発現のきっかけとなる因子を探索する。また、細胞内の酸化ストレス蓄積や細胞外環境の変化を可視化する手法を用いてHO-1の発現との関連を調べる。このようにHO-1のマーカーとしての意義・有用性を明確にすることで、表皮分化の多面的・多段階的な理解に役立つ知見が得られると期待される。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Journal of Allergy and Clinical Immunology
巻: 134 ページ: 856-864
10.1016/j.jaci.2014.08.001