研究課題
急性前骨髄急性白血病(acute promyelocytic leukemia, APL)は急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML)のひとつで、以前は致死的な経過をたどることが多かったが、全トランスレチノイン酸(ATRA)による分化誘導療法により、その治療成績は劇的に改善した。一方、ATRAの作用機序は不明な点が多く、ATRAがAPL細胞を分化誘導する際の詳細な分子基盤は、いまだ明らかでない。われわれはこれまでに、NAD依存性ヒストン脱アセチル化酵素SIRT2酵素活性阻害によりAPL細胞株NB4細胞が好中球様細胞へ分化することを明らかにした。さらにヒストンアセチル基転移酵素PCAFの発現が、ATRAがAPL細胞を分化誘導する際に亢進すること、APLをはじめとするAML細胞の分化と相関すること、ATRAによるAPL細胞の分化誘導に必要であることを示した。本研究課題は、ATRAがAPL細胞を分化誘導する際に、PCAFを介してアセチル化修飾する基質蛋白質を同定し、その役割を検討することで、ATRAによる蛋白質アセチル化を介したAPL細胞の分化誘導の分子基盤解明を目的としている。本年度は、アセチル化プロテオーム解析を実施し、ATRAによりアセチル化修飾を受ける、PCAFの基質蛋白質候補を同定した。さらにATRA処理後のPCAFの細胞内局在を検討し、核分画でその発現が亢進していることを明らかにした。これはATRAがAPL細胞を分化誘導する際に、PCAFを介して核蛋白質をアセチル化修飾していることを示唆している。
3: やや遅れている
アセチル化プロテオーム解析に先立ってPCAF過剰発現実験を行い、ATRAによるPCAF発現亢進がAPL細胞の分化誘導に必須であることを予定であったが、2種類のレトロウイルスベクターを用いてPCAF過剰発現実験を行ったところ、HL-60細胞およびNB4細胞において予定していたより細胞毒性が強く、また感染効率も低かったため分化誘導の正確な評価を行うことができなかった。プロモーター活性を抑えた新たなレトロウイルスベクターを用いた過剰発現実験をしなければならず、これにより遅延が生じた。一方で、アセチル化プロテオーム解析によりATRAがアセチル化修飾する基質蛋白質候補がわかったため、ATRAがAPL細胞を分化誘導する際に、PCAFを介してアセチル化修飾する基質蛋白質の同定に向けては一定の成果が得られた。以上から、現在の進捗状況として当初の予定よりやや遅れているものの、研究目的であるPCAFによる蛋白質アセチル化を介した、ATRAによるAPL細胞分化誘導の分子基盤の解明に向けては、着実に前進していると考えている。
現在、アセチル化プロテオーム解析で同定したPCAF基質蛋白質候補のうち、核蛋白質のアセチル化状態がATRAにより亢進するかを検討している。今後、同定したPCAF基質蛋白質の分化誘導における機能解析を行っていく予定である。
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PLOS ONE
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