本研究では,脂肪組織の肥大化に影響する細胞外マトリックスタンパクのリモデリングと歯周病罹患者の肝臓で増加するCRPに着目し,脂肪細胞のタンパク分解酵素とその内因性阻害剤の発現に及ぼすCRPの影響を調べた。26年度の研究では,成熟脂肪細胞へと分化誘導した3T3L-1細胞をCRPで刺激し,タンパク分解酵素であるmatrix metalloproteinases (MMPs) とその内因性阻害剤であるtissue inhibitor of metalloproteinases (TIMPs) の発現を調べた。その結果,CRP刺激で3T3L-1細胞のMMP-1,-2,-3,-9,-13,-14およびTIMP-1の発現が増加することを明らかにした。 CRPは,細胞上に発現するFcγ受容体に結合してその作用を発揮する。そこで,27年度の研究では,Fcγのサブタイプの中でFcγIIおよびFcγIIIをブロックする抗CD16/CD32が,CRP刺激誘導性のMMPsとTIMP-1の発現変化に及ぼす影響を調べた。その結果,CRP刺激で増加したMMP-2,-9および-14発現は,抗CD16/CD32抗体によってCRP未刺激レベルまで低下した。一方,MMP-1,-3,-13,およびTIMP-1発現増加も抗体で抑制されたが,未刺激レベルまでは低下しなかった。これらの結果から,CRPは,成熟脂肪細胞上に発現するFcγIIおよびIIIを介してMMP-2,-9および-14の発現を誘導することが,さらに MMP-1,-3,-13および TIMP-1の発現増加には,FcγIIおよびIIIに加えて他のサブタイプのFcγが関与する可能性が考えられた。以上の結果から, CRPは近接する内臓脂肪組織中の成熟脂肪細胞の複数のサブタイプのFcγ受容体を介してタンパク分解酵素とその内因性阻害剤の発現を誘導し,間質中の細胞外マトリックスタンパクのリモデリングを促進し,脂肪組織を肥大化させる可能性が考えられた。また,高血圧症と歯周病の主症状である歯槽骨吸収に着目した関連研究を行い,血圧調節因子であるAngiotensin IIが,骨芽細胞の分化と石灰化物形成機能を抑制することを明らかにした。
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