研究課題
重症敗血症後の長期認知機能障害(long-term cognitive impairment among survivors of severe sepsis, 以下CISS と略す)は、頻度の高い合併症であり、致死的な急性期より回復した患者における長期的な要介護率、うつ病発症率、死亡率の増加が臨床上の大きな課題となっている (Iwashyna TJ et al., JAMA. 2010; 304(16): 1787-1794.)。しかしながら、その発症には敗血症に関連する多臓器不全が複雑に関与するとされ、病態は明らかでない。本研究では、重症敗血症に伴い生じる体内の炎症反応、特にSTAT3 と貪食能の変化に注目し、中枢における長期的な神経・グリア回路網の破綻機構の解明を試み、CISS の予防、軽減ないし改善する方法の開発を行う。本年度は、CISS モデルとしてマウスに盲腸結紮穿刺cecal ligation and puncture(CLP)の処置を行い、経時的に記憶障害の評価と炎症反応の関係を検討した。結果、CLP処置後から脳神経での炎症性サイトカイン(TNFα、IL1β、IL6)の上昇および大脳中隔と海馬のGFAPとIba1陽性細胞の増加が観察された。CLP処置後14日目から行動学的には短期記憶を評価するY-maze試験において、その指標であるspontaneous alternation%の低下を認め、組織学的には大脳中隔におけるコリン作動性神経や黒漆・線条体におけるドーパミン作動性神経の減少が観察された。また、CLP処置後に脳内で生じている過剰な炎症性生体反応の抑制効果を示す薬剤候補としてアルツハイマー病関連神経保護因子Humanin G(HNG)に着目し、HNGの治療効果をCLPマウスで検討した。その結果、HNG投与によってCLP処置後の生存率の上昇、記憶障害の改善や炎症性生体反応に対する脳神経保護効果が確認された。
2: おおむね順調に進展している
ヒトで生じている重症敗血症後の長期認知機能障害(long-term cognitive impairment among survivors of severe sepsis, 以下CISS と略す)を、マウスに対する盲腸結紮穿刺処置によって再現するモデルの確立ができたことで、敗血症後の急性期に生じている神経・グリア回路網の破綻機構と慢性期の記憶障害の関係を検討することができた。また、来年度に計画していたCISS の予防、軽減ないし改善する方法の検討を前倒しで着手することにも繋がった。
1) ヒト重度敗血症の血液を採取し、炎症性サイトカインの発現と記憶障害の関連性を検討する。2) CLPマウスに対するHNG治療効果の作用メカニズムを詳細に検討する。
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Science Signaling
巻: 7 (351) ページ: ra106
10.1126/scisignal.2005375.