近年、超高齢社会に伴い口腔乾燥症(ドライマウス)患者が増加している。中には、明らかな病因の特定が困難な症例が散見される。このことから、新たな対処法を検討する必要があると考えられる。 ヒトの安静時唾液は分泌量に昼夜差を示す事が知られているが、その調節機構は明らかとなっていない。本研究では、顎下腺の機能の日内変動が、顎下腺自体の時計機構に駆動されるのか、体内時計の中枢である視交叉上核に制御されるのかを解明することを目的とし、概日リズムの分子機構の側面から唾液腺機能を検討することで、ドライマウスの対処法へ展開することである。 本研究において、野生型マウスの顎下腺で時計遺伝子(Per2、Bma1)および時計制御遺伝子(Dbp)が日内変動を示す事を明らかにした。また、唾液分泌に関与する水チャネルAquaporin5(Aqp5)に、マウスの活動期である夜間に発現量が最大となる日内変動を示すことを明らかにした。また、体内時計を欠損したノックアウトマウス(CryDKO)では、Aqp5の発現に変動を認めなかった。 さらに、体内時計の中枢である視交叉上核の影響を排除するため、培養条件下の顎下腺における遺伝子発現状態を検討した。その結果、Per2、Bmal1、Dbpの発現に概日変動を認めた。しかしながら、Aqp5の発現に概日変動を認めなかった。このことから、培養条件下において唾液腺自体の時計機構は存続するが、Aqp5の発現はその時計制御機構に影響を受けないことが示唆された。 これらの結果から、Aqp5発現の日内変動は自律神経系を介した中枢時計(視交叉上核)の影響を優位に受けて制御されていることが明らかとなった。
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