痛み感覚は器質的側面と情動的側面により構成されているが、臨床現場では器質的側面への治療が優先される傾向がある。治療抵抗例の中には情動的側面の関与が大きな病態も含まれているが、これに対する客観的指標がないことから漫然と器質的側面への治療が進められる傾向がある。このため情動的側面への介入が遅れてしまい、痛みの難治化が進んだり、背後にあるうつ病に対する治療が遅れることも現状では生じている。こうした現状をふまえ、今回痛みの情動的側面に対する客観的指標を確立することを目的に、神経障害性疼痛モデルマウスを用いて研究を行った。神経障害性疼痛モデルマウス(坐骨神経を結紮;CCI群)を作製し、1週間で疼痛が慢性化したことを確認した。その後拘束ストレスをCCI群とコントロール群に1日2時間×14日間負荷し、これらによる痛みの変化と、不安、抑うつの程度の評価を行った。その結果、いずれの群でも拘束ストレスにより疼痛閾値の低下を認めた。また抑うつを強制水泳テストで検討し、いずれの群でも拘束ストレスによる悪化を認めた。不安についてはHole-board testで検討したところ、CCI群のみストレスによる悪化を認めた。これらのマウスよりL4-6レベルの脊髄を摘出し、q-PCRにて遺伝子発現の変化を検討したところ、CCI群の拘束ストレス群で特異的にNMDA受容体サブユニットであるNR2AとNR2Bの低下を認めた。この結果は痛みに情動的ストレスが加わることにより脊髄レベルでも遺伝子発現に変化が生じることを示唆しており、痛みの新たなメカニズムを見出す可能性を有しているものと思われる。またこの変化にはmiRNAが関与している可能性があるが、miRNAが診断ツールとして有用であることから、今後血漿中のmiRNAの発現について検討することにより、痛みと情動的側面に対する診断法の確立に繋げていければと考えている。
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