最近の研究により、ミトコンドリアはATP産生の場としてだけでなく、アポトーシスの制御、活性酸素種(ROS)の生成およびCa2+の貯蔵庫としての役割が明らかになってきた。特に、心臓においてATP産生とCa2+調節はポンプ機能の維持に必須であり、また一方、ROSの生成は心不全の病態形成に密接に関わっている。このように、ミトコンドリアの制御機構は心臓の機能維持と病態生理を理解する上で重要であり、心不全の創薬標的としても極めて興味深い。これまでに申請者は、心不全時にsigma-1受容体/IP3受容体を介した筋小胞体-ミトコンドリアCa2+輸送系が障害されていること、さらに、その障害をsigma-1受容体アゴニストで改善すると、心筋保護効果が示されることを明らかにしてきた。本研究では、これまでの研究成果を糸口として、ミトコンドリアCa2+輸送体(MCU、NCLX)欠損マウスおよび薬理学的ツールを用い、ミトコンドリアCa2+制御機構とその破綻による心血管病態機序の解明を目的としている。これまで申請者は、心血管病の病態機序における各種ミトコンドリアCa2+輸送体の役割についてin vivoおよびin vitroの各種実験系を駆使して解析し、ミトコンドリアCa2+輸送体の新たな創薬標的としての可能性を追求するため、まず各種ミトコンドリアCa2+輸送体の心筋特異的・平滑筋特異的高発現マウスおよび遺伝子欠損マウスを作出した。現在これらマウスを使用し、フェノタイプを解析中である。これまでの解析により、ミトコンドリアCa2+輸送体の心筋特異的高発現マウスは、心肥大が引き起こされることを見出している。ミトコンドリアCa2+濃度維持機構の崩壊は心筋病態の発症・進展に密接に関わっていると考えられる。今後、詳細なメカニズムを解明していく予定である。
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